TOKYOまち・ひと物語

引きこもりの人に学び舎を 「TDU・雫穿大学」朝倉景樹さん

 15~64歳で引きこもりの状態にある人は、国内で推計115万人超とされる。そんな生きづらさを抱えた人たちの学び舎が新宿区内にある。昨秋誕生した「TDU・雫穿(てきせん)大学」だ。代表を務めるのは社会学者の朝倉景樹さん(55)。自分らしい生き方の創造を通じ、一歩を踏み出そうと模索する学生たちにエールを送り続けている。

 朝倉さんは、不登校の子供らを受け入れるフリースクール「東京シューレ」で30年近く現場スタッフとして勤務した経験を持つ。平成11年には18歳以上の学び場「シューレ大学」を若者たちと設立し、サポートに当たってきた。

 ルート外れ殻に

 各地で不登校の子供の理解や居場所づくりが進められる中、課題として強く意識したのが引きこもりの大人たちへの支援だった。日本では小中高校、大学や専門学校などを経て就職するのが一般的だが、こうしたルートを外れた人たちには苦しい現実が待っている。期待されたようにできない自分を責め続け、周囲が否定的な目を向けているのではと猜疑心(さいぎしん)にさいなまれる。やがて他者と交わることが怖くなり、自分の殻に閉じ籠もって、中から出ることが難しくなる。

 引きこもりに至った大人の社会復帰に向けては、相談窓口や就労訓練なども用意されてはいる。だが自力でそこまでたどり着ける人は少ない。「自分はどんな人間で、どのように生きたいのか。そしてどうしたらそれを実現できるのか。まずはこの問いを十分にできる環境をつくる必要があると思った」

 TDU・雫穿大学の創設は昨年10月。自分に合った生き方を試行錯誤できる場として、不登校や引きこもり経験を持つ若者らと立ち上げた。現在、18歳以上の約30人が学生として通っている。

 学び舎では学生自ら学びの計画を立て、それを実行していく。何を探究し、興味をどう深めていくかは自由だ。講師らは求められれば助言し、哲学や心理学、近現代史や語学など学生が望む講座も開かれる。

 学生たちの学びを深める上で重視しているのが「対話」だ。何を経験して生きづらさを感じるようになったのか。自分に問いかけて気持ちを整理した上で、仲間たちに発表してもらう機会を設けている。

 自己否定感を解き

 つらさや苦しみの在りかが分かると、自分の価値観が見えてくる。同じように自己否定感を抱き、対人恐怖にさいなまれてきた経験を持つ学生らに話すことで共感が生まれ、孤独から解放される。こうした経験の積み重ねは、自分らしく新たな一歩を踏み出す勇気となる。

 「自分の関心が見つかり深まっていくと、実際に何かを作って売り、お金を得てみたいと思う人が多い。すでにパイロットプロジェクトとして、その道のプロにアドバイスをもらいながら、企画を練るなどの活動も始まっている」。小説執筆やホームページ制作などの創作活動や、映像制作、演劇などのグループプロジェクトも走り出している。

 学び舎を修了する時期を決めるのは学生自身だ。昨年度末には計画の達成状況などの報告会が行われ、新たな目標を定める者、計画の微修正を思いつく者、さまざまな姿があった。

 「ここでは、長い間学生たちを苦しめてきた自己否定感が解きほぐされ、自分のやりたいことが見つかって生きていく手段として深まっていく。自分はこう生きて、こういう方向でやっていけそうだと思ったら、ここを出ていく。そんな場所になればいい」。温かなまなざしで語った。(三宅陽子)

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus