鉄道業界インサイド

新幹線の運転士が列車を止めてトイレに行っても、波風が立たない社会に (2/2ページ)

枝久保達也
枝久保達也

 「プロとして腹痛で列車止めるのは恥」

 問題は、運転士がそういう正規の手続きを行わなかった理由である。赤羽大臣が「社内の雰囲気も含めて検証」と言っているのも、運転士がトイレに行きたいと言い出しにくい空気があったのではないかということだ。

 JR東海によれば、運転士がトイレに行きたくなったという理由で新幹線が臨時停車したケースは過去10年で1件もなかった。また、当該運転士は「プロとして、こんなことで列車を止めるのが恥ずかしいと感じた」と述べたという。トイレに行きたくなっても列車を止めないのが「プロ」であり、そうした手配を取ることは恥ずかしいことだとの意識が現場の一部にあったのは間違いないだろう。

 だが、プロであるからこそ、突発的な体調不良にはしっかりと対応すべきであったし、ましてや運転席から離席するということは、安全上あってはならないことである。JR東海は今後、正しい手段で輸送指令に申告するよう、乗務員に徹底したいと語るが、社員が言い出しやすい労働環境を整える必要もあると指摘しておきたい。

 もうひとつ。今回の件を受けて、運転士が1人で乗務していることへの疑問の声もあった。しかし、トイレや体調不良のためだけに運転士を2人にするというのは、経営上の観点からも、人材確保の面からみても考えづらい。新幹線に乗務する2人の車掌のうち、1人は運転資格を有する者にするという考え方もあるが、運行を継続しながらトイレに行ける体制を無理に構築するよりも、ちょっとくらい列車を止めてトイレに行っても波風が立たない社会にする方が健全だろう。

枝久保達也(えだくぼ・たつや)
枝久保達也(えだくぼ・たつや) 鉄道ライター
都市交通史研究家
1982年11月、上越新幹線より数日早く鉄道のまち大宮市に生まれるが、幼少期は鉄道には全く興味を示さなかった。2006年に東京メトロに入社し、広報・マーケティング・コミュニケーション業務を担当。2017年に独立して、現在は鉄道ライター・都市交通史研究家として活動している。専門は地下鉄を中心とした東京の都市交通の成り立ち。著書に「戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団」(青弓社)。

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