葬儀は見送る家族にとっても生涯数度の大仕事。だが、「死後の手続き」の本番はむしろ、葬儀後だ。いつまでに、何をやるべきか。知らないと損する「もらえるお金」も含め、まとめた。
◆「２００万円以下」７４％
人が亡くなると、お金はいくらかかるのか。一概に示すのは難しい。お墓の有無、供養に対する考え方、相続する資産などによって、大きく異なるからだ。それでも、ほとんどの人にとって、死後すぐに支出される大きなお金がある。葬儀費用だ。
「ＳＢＩいきいき少額短期保険」が２０２０年８月、契約者を対象に実施した「お葬式に関するアンケート」（有効回答数２５３７人）で、葬儀費用の総額について尋ねた。
経験した「家族の葬儀」のときよりも、将来の「自分の葬儀」では「費用を低く抑えたい」という傾向が顕著にみられた。回答者の約９割が５０代以上だった。
家族の葬儀費用について、自身や配偶者が喪主として葬儀を執り行った経験者の７４．２％が「２００万円以下」と回答した。このうち半数以上が１００万円を上回った。従来の一般葬を営んだ人が多かったとみられる。
◆「負担かけたくない」
これに対して、自身の葬儀で希望や関心のあるものとして、「家族葬のような親しい人のみの小規模な葬儀」と回答した人が、６５．１％（複数回答、以下同）と最も多かった。「一般的な葬儀」（８．８％）、「直葬」（８．４％）を圧倒的に引き離した。同社では「新型コロナウイルスの感染拡大防止の影響もありそうだ」とみている。近年の「葬儀の簡素化」の傾向が、コロナ禍でさらに高まっているようだ。
自身の葬儀費用では、「１００万円以下」が６３．３％と約３分の２を占めた。「子供に負担をかけたくない」などの理由で、費用を抑えたいという傾向がうかがえる結果となった。
■葬儀社の会員制度 会費支払い割引も
葬儀専門業者、互助会系ともに、独自の会員制度をもつ葬儀社が多い。１回だけ会費（１～５万円程度）を支払うと、自身や家族の葬儀費用が１５～５０％割引になる。
入会後は商品券やクオカード（１０００～３０００円）がプレゼントされることも多い。関東は商品券かお米、関西ではお米や洗剤セットなどが多い。名古屋は、クオカードや商品券もあるが、全くプレゼントがない場合もある。ただ、キャンペーン期間中の会費が５０００～１万円と割安になる業者が目立つ。
「簡素化」で葬儀費用も数十万円が主流となるなか、顧客の“囲い込み”もシンプルになっているようだ。
■「もらえるお金」確認しよう 葬祭費、埋葬料など補助も
葬送の費用を補助する制度が「葬祭費」「埋葬料」だ。国民健康保険または後期高齢者医療保険の加入者が亡くなったとき、支給されるのが「葬祭費」。支給額は市区町村で異なる。東京都の２３区は７万円だが、全国的には３万円程度の自治体も多い。
申請には印鑑、健康保険証、葬儀社発行の内訳がわかる領収書（または会葬礼状）、葬儀を行った人の金融機関の口座番号が必要だ。
ファイナンシャルプランナーの野口悟さんは「死亡診断書の写しなどが必要な自治体もあります。居住する市区町村の窓口に問い合わせることが大切です」とアドバイスする。
一方、全国健康保険協会の「協会けんぽ」や会社の健康保険組合などの加入者が亡くなった際に支払われるのが「埋葬料」だ。一律５万円で、申請には、住民票、領収書の原本、死亡診断書、埋葬許可証のコピーなどが必要になる。
葬祭費と埋葬料、どちらも親族以外の人が葬儀を行っても申請できる。ただし、埋葬料は亡くなった加入者に扶養家族がいない場合に、５万円の範囲内で実費を申請する。
◆高額療養費
１カ月間に窓口で払った医療費が、「自己負担限度額」を超えた場合、請求で払い戻されるのが「高額療養費制度」だ。自己負担限度額は「７０歳未満」「７０歳以上」の２区分に加え、所得で細かく設定されている。
亡くなった後、遺族が請求できる。だが、意外に多いのが「外来」で支払った医療費の申請漏れだという。制度が複雑でそのままにしてしまうことも多い。
野口さんは「７０歳以上に設けられた“外来区分”で、申請を忘れるケースが目立ちます」と話す。一般所得者の場合、１カ月間の負担上限額は入院、外来を含めて４万４０００円だが、通院だけだと、外来区分の１万８０００円を超えた分が払い戻しの対象となる。
例えば、２つの病院に通い、それぞれ１万円ずつ診療代や薬代などの自己負担があれば、合算で２万円になり、負担上限額を上回る２０００円が払い戻しの対象となる。これを見逃す人が多いのだという。請求できる２年前までさかのぼれば、４万８０００円になる計算だ。
医療機関や薬局の領収書が残っていれば、故人が加入していた健康保険の窓口に確認したほうがいいだろう。
◆未支給年金
年金は２カ月分を偶数月に受け取る仕組み。死後最初の偶数月に受給が停止される。
ただし、亡くなった月分までが支給対象だ。このため、受給停止で最大２カ月分が「未支給」になるが、遺族は請求によって受け取ることができる。
「遺族年金の申請手続きをする際、窓口で教えてくれるはずですが、申請しないと受給できません。窓口で説明を受けても自動的に振り込まれることはありません」と野口さん。日本年金機構も遺族に案内を郵送しているという。
また、未支給年金は受け取った人の「一時所得」に該当する場合がある。受け取る年分に、一時所得の合計額が５０万円以上になると、確定申告が必要だ。（『終活読本ソナエ』２０２１年新春号から順次掲載）