5月の26日に残念な思いを抱いた向きは少なくないだろう。かく言う筆者もその一人である。もし、今、「何が?」と思われたなら、受験生の親としては心許ない。そう、「何が?」って、皆既月食である。
皆既月食自体は3年ぶりだが、スーパームーン皆既月食は24年ぶりだっただけに、西日本や東日本の多くで曇天となって観察できなかったことは残念でならない。
筆者は現在、中学受験に関しては、算数・理科・理系を担当しているのであるが、その生徒たちの多くも今回の皆既月食を楽しみにしていたようで、授業時間を少し割いて、「なぜ地球の影に覆われている月が、赤茶色の満月に見えるのか?」について解説した際には、好奇心を持って聴いてくれていただけに、残念至極である。ちなみに、次の皆既月食は2033年10月8日である。
「教師の役目は、眠っている好奇心を刺激してやること」
「好奇心」と言えば、テレビドラマ「ドラゴン桜」で阿部寛氏演じる桜木はこんなことを言っている。
「生徒は自由にのびのび個性を伸ばすべきだ。勉強ってのは、強制的にやらされたからって伸びるもんじゃねぇ。
だからって、野放しに自由にさせりゃいいってもんでもない。
人間には上を目指したいという本能がある。覚悟を決めたら、生徒は自らの殻を破り、能力を開花させる。
教師の役目は、奴らのなかの眠っている好奇心を刺激してやることだ」
「ヒトの誕生」への好奇心 小5男子は手ごわい
さて、好奇心と言えば、中学受験の理科にはその好奇心への対処が悩ましい単元がある。とくに若手の講師には鬼門になりかねない。それは、小5の理科で、1年のうちのちょうど今頃の時期にやってくる「動物とヒトの誕生」「ヒトの誕生とふえ方」といったタイトルの単元である。
その単元では、「女性と男性のからだのつくり(のちがい)」や「受精・着床までのプロセス」「たい児の成長と誕生まで」などが、豊富な断面図などと共に説明されている。
解説時の生徒たちの反応はというと、女子生徒のほとんどは自分事として(質問はせずに)真剣に耳を傾けているのであるが、男子は好奇心のある生徒と他人事と思っている生徒とに分かれる感がある。
生徒たちからの情報では、女子生徒は小4の終わり頃に、別室に集められて保健の先生から性(生殖)に関する講話を受けている。が、男子生徒はその間、自分の教室に残されて読書タイムなどになるらしい。つまり、女子生徒にとっては、一度は少し聞いたことのある(映像で視聴したことのある)内容であるが、多くの男子生徒にとっては(学校の理科・保健も含めて)初出に等しいようだ。
ある年、とある男子生徒とこんなやり取りをした。
授業中、「せんせー、しつもーん」と言って挙手されたので、「うん、なんだ?」と促すと、「ちつって、どこにあるんですか?」と大真面目に聞いてくる。
クラス全体にさっと視線を巡らすと、女子生徒は「どう答えるのか?」と言わんばかりに、皆が目をこちらに向けている。だが、この程度は想定内である。
「先生は男だからよくわかんないなぁ。お母さんか保健の先生に聞いてみたら?」と、その場をかわす(さすがに、大勢の女子生徒の前でテキストにない図を板書して説明するわけにはいかない)。