大学キャンパスを会場とする新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐり、文部科学省は11日、32大学が実施の申請を済ませたことを明らかにした。学生らへの接種が加速すれば、現在も制限が続く対面授業の本格的な再開に道が開け、サークル活動などの交流機会拡大も期待できる。ただ、接種者でも感染を媒介する可能性が残るため、接種を「免罪符」として感染対策がなおざりにされれば本末転倒となる。接種後も緊張感を維持する工夫が求められそうだ。
近隣大も対象に
「キャンパスライフを奪還する」。東京都港区の三田キャンパスで21日からの接種開始を表明した慶応大では、伊藤公平塾長がオンラインでこう呼びかけ、学生たちに対して積極的に接種を受けるよう促した。
接種で得られる恩恵の一つは、授業や課外活動の制限が大幅に解除できる可能性が出てくることだ。この春学期は半分の授業を対面化したが、緊急事態宣言の再発令を受けて一部の授業でオンラインへの転換を余儀なくされた。
21日から接種を始める近畿大(大阪)も授業は全面的にオンラインで実施中。11日には、約2万5千人の学生を対象に1回目接種の予約受け付けを始め、対面再開を目指す大学側の準備の加速を印象付けた。
「自校の教職員と学生だけに打つのではない」。萩生田光一文科相は11日、閣議後の記者会見で大学に会場を開設する意義をこう強調し、会場とならない近隣校の学生らも積極的に対象に加えるように求めた。
好例として挙げたのが、27日からの接種を目指す弘前大(青森)だ。市内にある柴田学園大や弘前学院大など他大学の学生らも対象にする方針だという。
申請済みの32大学は10日正午時点の数で、文科省はこの他にも65大学から相談を受けている。学内接種を表明している大学の対象者を足し合わせるだけでも、接種対象の学生は数十万人を優に超える規模となり、さらに増える見通しだ。
慎重な行動を
接種を受ける大学生が増えれば、その行動にも注意が必要となる。文科省は3月に大学生の感染が「飲み会や課外活動などで多く発生している」として大学側に注意喚起の徹底を要請。今後、接種によって安心感を得ることで学生に感染対策の緩みが生じては本末転倒となる。ある大学関係者は「緩みはブレイクスルー感染の要因になるので、接種が『免罪符』とならないかという不安はある」と話す。
「ブレイクスルー感染」とは、ワクチンを接種したにもかかわらず感染してしまう現象で、海外でも事例が報告されている。また、厚生労働省は「接種した人から他人への感染をどの程度予防できるかは分かっていない」としており、接種後もマスク着用や「3密」回避などの感染対策の徹底が引き続き求められる。
大学側も警戒を強めている。慶応大の伊藤塾長は学生に対するメッセージで「(接種の)目的はあくまでも、安全な学習や課外活動などを整えることで、決して、楽しい食事会や飲み会や旅行を再開するためではない」と述べ、学生らに慎重な行動を求めている。