ヘルスケア

職場接種で同調圧力懸念 企業苦慮、「解雇」事例も

 本格化した新型コロナウイルスワクチンの職場接種をめぐり、企業内で接種を強要するような同調圧力を懸念する声が上がっている。接種希望の有無を秘密裏に伝える仕組みを構築した企業がある一方、多くの企業は打ち手や会場確保などに追われ、情報管理に手が回っていない。福祉施設の職員らの中には接種しないことを理由に解雇を告げられた事例もあり、ワクチン差別やハラスメントが危惧される。

 「接種を進める上で、情報管理の徹底は大前提」と話すのは、全国に先駆けて今月13日に職場接種を始めた全日本空輸の担当者。同社は第三者に知られない形で接種希望の有無を把握するため、上司などを通さずに本人が社内アンケートに回答する仕組みを整えた。

 副反応に伴う休暇などを踏まえ、部署ごとに接種と業務の日程調整を行う担当者にはアンケート結果が伝わってしまうが、それ以外の理由で情報を漏らさないように全社員向けの通知で注意を促している。

 接種にあたっては、感染リスクの高い国際線のパイロットらを優先しているが、接種を希望しない場合にも業務内容が制限されることはないという。

 新型コロナのワクチン接種は、予防接種法の規定で国民の「努力義務」になっているが、実際に接種するかどうかは個人の自由意思で、強制されない。ただ、自治体が窓口になるケースと比べ、職場接種では希望しない人が特定されたり、同僚から圧力を受けたりする恐れがある。

 21日から接種を始めたソフトバンクグループは、社員や家族ら約10万人の対象者を想定。グループ主力のソフトバンクのオンライン朝礼では、宮川潤一社長から全社員に向け、会社での接種を義務付けるものではなく、接種の強要などがないように呼びかけるメッセージが発信された。

 接種の案内は対象者に直接メールで送信。希望者は人事担当が管理する専用システムから直接予約できる仕組みで、上司や同僚に情報が伝わることはない。このため、部署内での日程調整も行わないという。

 職場接種に参加する他の企業も顧客と接する従業員を優先したり、下請け業者や家族にも対象を広げたりするなどの接種方針を固めつつある。その一方、接種に関する情報管理のルール作りにまで配慮が行き届いているところは少ない。

 ある企業の担当者は「(同調圧力への)対策は必要だが、今はワクチンと会場の確保に注力している状況」と漏らす。

 先行して接種が進む医療従事者や福祉施設の職員からは、実際に不利益を被るような職場の対応も報告されている。日弁連が5月に実施したワクチン接種に関する無料相談会には、全国から208件の相談が寄せられた。介護施設の職員が「打たなければクビ」と告げられた事例もあった。

 日弁連によると、勤務先から接種を強要された相談者が、過去の手術を理由に医師から接種を控えるように言われたと伝えたところ、「医師の証明書が必要だ」と迫られた。また、介護施設の職員が「持病があるため接種できないことを勤務先へ伝えたら退職を勧められた」と打ち明けたケースもあったという。

 職場に「受ける」「受けない」のチェック表が張り出されたり、名札に接種の有無を表示されたりするなどプライバシー侵害に該当する事例もあった。

 相談に応じた川上詩朗弁護士は「精神的な不安が募り、退職も辞さないほど苦しんでいる人もいた。職場の同調圧力によって接種しない人が非難される傾向がある」と強調した。

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