宇宙開発のボラティリティ

史上最大「スーパーヘビー」の独創性 イーロン悲願実現へ向け初テスト迫る (2/2ページ)

鈴木喜生
鈴木喜生

▼「高度100km以上」の宇宙軌道へ 必須速度は「秒速7.9km」

 打ち上げられたロケットの獲得高度と初速度の推移を具体的に見ると、以下のようになる。まずは、宇宙船クルー・ドラゴンを搭載したファルコン9(二段式)。記した時間は打ち上げからの経過時間だ。

《2分40秒》

 第一段エンジンを停止

 高度80km、秒速1.9km

 続いて第二段エンジンを点火

《9分》

 第二段エンジンを停止

 高度200km、秒速7.5km

《その後、第二段を切り離す》

 宇宙船のスラスターを噴射

(地球周回軌道への投入完了)

 ISSの高度410kmまで上昇

 また、アポロ計画で使用されたサターンV(三段式)の場合は以下のとおりだ。

《2分15秒》

 第一段エンジンを停止

 高度66km、秒速2.75km

 続いて第二段エンジンを点火

《9分》

 第二段エンジンを停止

 高度180km、秒速7km

 続いて第三段エンジンを点火

《11分40秒》

 第三段エンジンを停止

 高度188km、秒速7.9km

(地球周回軌道への投入完了)

《2時間44分》

 第三段エンジンを再点火

 月へ向かう長楕円軌道へ

 サターンVの場合、最後の第三段エンジンを再点火することによってその軌道を極端な楕円にする。つまり、地球を周回する長楕円軌道におけるもっとも地球から遠くに位置するポイント(遠地点)を、38万km離れた月に到達させることによって、アポロ宇宙船は約3日間のクルーズを経て、月に到達することができるようになる。

 この2例によって、ロケットというものが驚異的なスピードで上昇し、加速している様子がわかるだろう。高度100kmの宇宙へ到達するのに、ファルコン9は2分55秒、サターンVは3分30秒しか要しないのだ。

 スターシップとスーパーヘビーにおける打ち上げシークエンスは、高度と速度は未定ながら、以下のタイムスケジュールが公表されている。第二段(スターシップ)のエンジンを停止した時点で、その機速は秒速7.5kmに達するとされている。

《2分49秒》

 第一段エンジンを停止

 (スーパーヘビー分離)

 続いて第二段エンジンを点火

《8分15秒》

 スーパーヘビー着水

《8分41秒》

 第二段エンジンを停止

《90分20秒》

 スターシップ着水

既存ロケットとまったく違う スターシップの打ち上げ行程とは?

 スターシップとスーパーヘビーの運用方法は、先述したような多段式ロケットとは少々異なる。宇宙船スターシップの乾燥質量(燃料未搭載の質量)は120トンであり、積載物を100トン搭載すれば総質量は220トンになるが、これをスーパーヘビーは単独で、地球を周回する低軌道(高度100~2,000km)に到達させなければならない。その推力を獲得するために、スーパーヘビーはラプター・エンジンを28基搭載する。

 火星など、スターシップを極力遠方へ到達させようとしたとき、打ち上げ時にはそこに最低限の燃料しかを注入しない。まずは積載物だけを満載したスターシップを地球周回軌道へ上げ、同時に、燃料を満載したスターシップ「タンカー」をもう1機打ち上げ、軌道上で補給し、それが完了すると地球へ帰還して再利用される。こうすることで宇宙船スターシップは、トータル1,435トンの宇宙船を火星へ送ることが可能となる。サターンVが月へ送り届けたアポロ宇宙船と月着陸船の総質量が45トンであることを考えれば、スターシップとスーパーヘビーによるシステムが、いかに拡張性の高いものであるかがわかる。

 スターシップを地球周回軌道上で使用する場合は、既存の宇宙機のように機体の一部を投棄することなく、スペースシャトルと同様、そのまま大気圏に再突入し、そして再利用される。また、宇宙船スターシップは、今年4月にNASAによって、アルテミス計画における月面着陸船にも選定されているが、この場合、打ち上げられたスターシップは地球に帰還せず、月周回軌道を回る中継ステーション「ゲートウェイ」と月面の間の往復機となる。

 スペースX社は、スターシップとスーパーヘビーを運用するために、独自の射場基地「スターベース」を米テキサス州ボカ・チカに建設した。先述の打ち上げテストもすべてここで行われ、スーパーヘビーが着陸する際に機体を保持するためのタワーも現在建設されている。

 イーロン・マスク氏は、この宇宙機によって人類を月だけでなく、火星にも送り込もうとしている。米本土においては、これまで有人宇宙船は主にフロリダ州にあるケネディ宇宙船から打ち上げられてきたが、テキサス州が火星への玄関口になる日は、それほど遠くないかもしれない。

出版社の編集長を経て、著者兼フリー編集者へ。宇宙、科学技術、第二次大戦機、マクロ経済学などのムックや書籍を手掛けつつ自らも執筆。自著に『宇宙プロジェクト開発史大全』『これからはじまる科学技術プロジェクト』『コロナショック後の株と世界経済の教科書』など。編集作品に『栄発動機取扱説明書 完全復刻版』『零戦五二型 レストアの真実と全記録』(すべてエイ出版社)など。

【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。アーカイブはこちら

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