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根付くか究極「エコ登山」 世界的な環境先進地域に

 夏山シーズンが本格化する中、日本百名山の光(てかり)岳(2592メートル)中腹にレンタルテントを使ったベースキャンプが登場した。中高年も登頂しやすくなるが、登山客は携帯トイレで用を足し、排泄(はいせつ)物も持ち帰る必要がある。麓の長野県飯田市出身の登山家、大蔵喜福(よしとみ)さん(70)による「山小屋が整備されていないここでしかできない」取り組みだ。できるだけ自然を傷めない「エコ登山」を実践する聖地として、いずれはこの地をスイス・ツェルマットのような環境先進地域にと、夢を膨らませる。

 後回しになる百名山

 大蔵さんは、エベレストなど8千メートル級を何座も登頂し、山岳ガイドとしても活躍。仲間を亡くした北米大陸最高峰デナリ(6190メートル)の気象観測を一昨年まで30年続けた。デナリでは、排泄物を持ち帰らない者への罰則もあり、それが発想のベースだ。

 長野県有数の秘境である「遠山郷」にある登山口、易(い)老(ろう)渡(ど)(880メートル)から光岳山頂付近まで山小屋はなく、登頂して光岳小屋に着くまで標高差約1700メートル、標準コースタイムで約7時間かかる。平成30年からは車道の崩落で、さらに易老渡まで1時間半ほど歩かなければならなくなった。定年後に百名山制覇を目指す人も多いが、大蔵さんいわく「光岳は後回しになる百名山の代表」だ。

 大蔵さんが顧問を務める「南信州山岳文化伝統の会」や南信州観光公社が特別許可を得てレンタルテントを設置した面(めん)平(だいら)(1480メートル)に泊まれば光岳小屋まで標高差1100メートル、標準コースタイム6時間とぐっと楽になる。

 ヒマラヤ公募隊のガイドを務めるなどいわゆる商業登山に関わってきた大蔵さん。決して山小屋を否定するわけではない。「山小屋は登山道の整備や遭難者救助などになくては困る。一方で、新たに作る時代ではない」

 山小屋が整備されていない場所だからこそ、排泄物まで持ち帰ることも奇をてらったものでなくなるのだ。ヒマラヤで始まっているテントなどのシェアもヒントにした。

 世界的な環境先進地域に

 管理人はおらず、当面、研修を受けた山岳ガイドが利用者にマナーなどを指導。ゆくゆくは地元の雇用につながればと考えている。光岳に続いて、ともに百名山の聖岳、赤石岳の登頂ルートも整備を進める予定だ。また、登頂を目指さない自然観察会などでも引き合いは強い。

 大蔵さんは、地域のブランド力を高めるエコツーリズム推進法の枠組みを活用し、域内の移動を電気自動車にするなどして、世界的な環境先進地域へと発展させたいと考えている。

 遠山郷は、急斜面にできた集落「下(しも)栗(ぐり)の里」が有名なほか、毎年12月の「遠山の霜(しも)月(つき)祭(まつり)」は国の重要無形民俗文化財にもなっている。また、遠山森林鉄道の軌道跡は歩道としての整備も進む。「入り口は登山だが、環境、文化、宗教などとつなげて点を線にしたい」と、にぎわう故郷を思い描く。

 インパクトある試みだが、最初は抵抗感のあった人もすぐに慣れるという。これまで寛容だった「山のトイレ問題」だが、登山道を外れると危険で、植物を踏み荒らすことにもなり、悪臭や飲み水の汚染にもつながる。エコロジー意識の高まりで、臭いものに蓋をし続けられる時代ではなくなってきた。

【南アルプス南部の登山】 光岳、聖岳、赤石岳など長野・静岡県境に標高2500~3000メートル級の山々が連なる。ライチョウの南限。隆起が年間数ミリと大きく、雨量も多いため崩落が多発。北アルプスなどと比べると登山客が少なく、交通の便も発達していない。昨年と今年は新型コロナウイルスの感染防止などを理由に一帯の山小屋はほとんどが運営を取りやめ、避難小屋として開放されている。

【記者の独り言】 東京都などの緊急事態宣言の最終日となった6月20日の日曜日、麓から面平まで大蔵喜福さんについて往復した。登山客は、仲間のガイドさんが連れた2人と、トレイルランニングの2人に出会っただけ。本当に寂しい。テントは3人用が10張りあるが宣言で貸し切りが3回キャンセルになった。7月は予約は順調に入っているそうなので、好スタートが切れることを願う。(原田成樹)

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