東京五輪の開幕が迫る中、新型コロナウイルスの感染再拡大の影響で、日本が誇るべき「おもてなし」の在り方が揺らいでいる。海外選手や大会スタッフとの触れ合いが制限され、中止に追い込まれた交流イベントも少なくない。選手村や競技会場周辺では、ウェブ体験やバスツアーなど感染リスクを抑えた新たな歓迎方法が模索されている。
招致の最終プレゼンテーションをきっかけに、流行語大賞にも選ばれた「おもてなし」。「地元でおもてなしの機運を高め、準備してきただけに残念で仕方ない」。選手村のある東京都中央区の担当者はこう言って肩を落とした。大会期間中に滞在する約1万8千人の選手らと、区民らが触れ合うさまざまなイベントを企画してきたが、一部が変更を余儀なくされた。
その一つが20万羽以上の折り鶴だ。区民らが1羽ずつ折り、選手村で渡す予定だったが、選手らが外部との接触を制限されたことで断念。公式練習場などに専用ラックを設け、自由に持ち帰ってもらう形に切り替えた。「1羽1羽に込められた気持ちを少しでも届けたい」(区担当者)。
地元企業などと合同で実施予定だったパブリックビューイングも取りやめに。外国人観光客と一緒に観戦することも想定し、観光案内のほか、一部の競技の体験会を行うなど貴重な交流の場となるはずだった。
日本オリンピック委員会が日本文化をPRするため、21日から日本オリンピックミュージアム(新宿区)に開設する「ジャパンハウス」は、事前予約制で大会関係者のみの公開になった。過去の五輪では、和食の提供などで「おもてなし」を体現してきたが、今回は展示を中心とした大幅な趣向変えを求められた。
メインスタジアムの国立競技場に近接する津田塾大千駄ケ谷キャンパス(渋谷区)では、五輪向けのおもてなしプロジェクトに約200人の学生が参加。英語の観光パンフレット約3千部を制作したが、対面での配布は中止が決まった。
一方、キャンパスに海外選手らを招いて行う予定だった茶会や将棋などの日本文化の体験を、ウェブ上で代替できるシステムを急ピッチで構築中で、大会期間中の公開を目指している。同大総合政策学部の曽根原登教授は「どんな形であっても、結果として日本文化に関心を持ってくれることが大事だ」と意義を強調する。
組織委員会が海外選手向けに検討しているのは、東京スカイツリーや浅草・雷門など都内の観光地をめぐるバスツアーの企画だ。
選手らには、一般人との接触を避ける「バブル方式」と呼ばれる措置が講じられ、選手村などから自由に出歩けない。ただ、バスの車窓から景観を眺める程度であれば、人と接することはなく感染リスクは高くないとみられ、日本文化を少しでも味わってもらおうという狙いがある。
ルートや案内方法など実現にはハードルも低くないが、組織委はぎりぎりまで調整を続ける方針だ。