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閉塞日本に活入れる「昭和文芸」 小学館の“渋い”レーベルが人気

 埋もれた昭和の文芸作品に光を当てる異色のレーベル「P+D BOOKS」(小学館)が創刊7年目に突入。若者の読書習慣・体験をサポートしながら日本の閉(へい)塞(そく)状況に、「時代とともに勢いがあった昭和文芸を元気の源にしてほしい」と担当者は意気軒高だ。

 「6年続けてきて約220冊の塊になり、毎月いずれか重版もかかっている。文芸ファンの読者、書店さんに一定の認知もされてきたのかなと思います」

 P+D BOOKS編集長の西坂正樹さん(59)が手応えを語る。平成27年5月に創刊の同レーベルは後世に読み継がれるべき昭和の名作ながら絶版などで入手困難なものをペーパーバック(P)と電子書籍(D)で同時発売するもの。

 当初は電子だけの企画だったが、著作権継承者への配慮などから紙でも出すことに。それでも主体は絶版がなく、24時間いつでも買えて、ロングテール(個々の商品の売り上げは少しずつでも、多種類で大きな売り上げになる法則)でやっていける電子書籍。

 通常、電子書籍は「紙の9掛け」の値付けだが、電子の値段に紙も合わせて同価格にこだわり、「原価計算を何度もやり直した」。カバーも帯も削り、本文もリーズナブルなコミック用の紙で、100部からの小ロットで重版できるようにするなどコストを抑えた。

 一方、文庫より大きいB6判のサイズ、普通は漢字より小さくなるひらがなを読みやすくした書体、カラフルなボーダーラインを基調としたデザインの表紙ができ、価格も税別で500円から800円と割安に。

 ラインアップは、絶版になった昭和の文芸作品を中心に発掘。その過程で山口瞳の「居酒屋兆治」など、「意外なものが絶版になっている」という発見や、自社の学年誌で連載した後、「幻の作品」となっていた松本清張「山中鹿之助」、「女学生の友」で連載した川端康成の「親友」といった「お宝」も続々。

 「山中鹿之助」「居酒屋兆治」のほか中上健次「鳳仙花」、吉行淳之介「焔の中」、三遊亭圓生「浮世に言い忘れたこと」、北杜夫「どくとるマンボウ追想記」など16点で創刊。その後ほぼ毎月刊行され、今年7月で219冊に。

 ペーパーバック版の売り上げランキングは別表の通り。「山中鹿之助」や圓生の2作などは小学館文庫にも入った後もP+Dでも重版がかかる人気だ。電子書籍のランキングでは、全20巻の栗本薫「魔界水滸伝」シリーズが1位以下ベスト10に5作品入っている。

 「栗本さんは読者層が若く、本も元祖ラノベ(ライトノベル)で、電子との相性がいい。紙と電子の割合は普通は紙が7~9割ですが、栗本さんは電子が8割です」

 栗本以外の作家別では遠藤周作、福永武彦、庄野潤三が各6作品、山口瞳が5作品、色川武大が4作品。現在、読者層の中心は50代以上だが、西坂さんは若者にも熱い視線を送る。

 「読書の習慣や体験がどんどんなくなり、長い作品を読むのがつらくなっている。出版社としては読書に慣れていただくという意味でも、レーベルの意義を感じているので、できるだけ(ページ数は)薄くしてハードルを下げています」

 実際、最近刊行した石坂洋次郎「若い人」や石川達三「金環蝕」など当時は一冊で出たが、P+Dでは上下巻にした作品もある。

 昭和文芸中心のラインアップについて西坂さんは、「昭和という時代は高度成長、バブルも含めて勢いがあった。その時代の息吹、生活も感じられる昭和文芸には、日本の元気の源がある。こういう作品からやる気や勇気をもらい、閉塞感ある社会の殻を破ってほしい」と語る。

 さらに、「作家や作品にはむちゃくちゃな人、人生の落後者みたいな人がいっぱい出てくる。でも、そういう人を社会が支え、飛びぬけた(才能の)人がのびのびやれた。小さくまとまっている今の若者たちも昭和文芸を読んで、もっとむちゃくちゃでもいいんだと自信を持ってもらい、年配の方には、あの時代を思い出して前へ進んでもらえたら」と思いを込めた。

 ステイホームのこの夏、手に取ってみてはいかがだろう。

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