長い映画を10分程度に編集し、違法に公開する「ファスト映画」が問題となり、一部は著作権法違反罪で事件化されている。こうした最近の映像文化と若者はどう接しているのか。6日に公開された映画「サマーフィルムにのって」(松本壮史監督)のトークイベントが7月26日、東京都千代田区のアキバシアターで開かれ、学生たちが身近な動画視聴の実態や映画に対する思いを語った。
話かみ合わず
パネリストとして登壇したのは、それぞれ学校や学生団体の活動で映画の製作をしている学生3人と、松本監督。映画コメンテーターのしんのすけ(齊藤進之介)さんが進行役を務めた。
まず、話題になったのは1・25倍速や1・5倍速で視聴する「倍速再生」だ。数年前から、ネットの動画サイトでも標準でこの機能が付いている。松本監督は最初、「倍速で見る人がいることを知って驚いた」という。
神奈川県の高校3年、加藤大空(そら)さん(18)は、「周りの20~30人に聞いてみたら、ほぼ全員、倍速で見た経験がありました」。
都内の大学2年、戸梶美雪さん(19)は「友達と映画の話をしていて、話は一応かみ合っているけど、もしかしてちゃんと見てないのかなと感じることがあって。よく聞くと友達は倍速で見てた、ということがあります」という。倍速視聴は若い世代で広がっていることがうかがえる。
好きなシーンなくなって
ファスト映画は倍速視聴とは違って、編集作業によって10分程度に短くされたものだ。松本監督は映画のつくり手として、自分の作品を短尺にまとめられたらどう思うか。しんのすけさんが水を向けた。
松本監督は「まず『短尺の作品』とファスト映画はまったく違いますね。尺は物語、テーマによってそれぞれ必要な長さがあるものです。ファスト映画は情報の圧縮。編集室であと0・5秒だけ間をつめたり広げたりしたい、といった余韻などがまるで意味がなくなってしまうという悲しさがある。実際に見てみたが、すごい好きなシーンの余白なども全くなくなっていた。これで映画を1本見たことにカウントはできないなと思いました」。
戸梶さんも同様だ。「ここの5秒の間を見てほしいなどと思って作っているので、それが全部なくなっちゃうと悲しい。ファスト映画で1本見た気になられるのは恐いなと思います」
都内の高校3年、埜邑明日加(のむら・あすか)さん(17)は学生団体で映画を製作している。「友達と映画の話をしたときに、よく聞くとファスト映画で見たものを『見たことある』と言っていることが分かって。あらすじだけ知ってればいいという感じらしいです。でも映画は物語だけじゃなく、映像、聴覚、いろんな要素があって成り立っていますから。あらすじだけじゃあなあ、と思います」
「予習用」として
映画好きならではの、やや変わった見方をしていたのは加藤さんだ。「ファスト映画で利益をあげるのは許されることではない」としながらも、先にあらすじをつかむためだけに見ることがあったという。
「ぼくは技術面、間の取り方を非常に気にするほうなので、先に内容を把握していないと細かいところまで見れないところがある。短いもので一度内容を把握してから本来の長さの作品を視聴する、ということをやっていました」
動画サイトでは、オフィシャルなPR動画も違法に公開されたファスト映画も同列に出てきて、慣れないユーザーが区別するのは難しい。「例えば(映画の)『何者』と検索するとPR動画のすぐ下にファスト映画が表示されて。それで短いのを見て、物足りなく思って本編を見てみようと」(加藤さん)