いまも手作業で作られるロータリーエンジン
だが、そんなロータリーエンジンの生産は終わっていなかった。名機「13B型ロータリー」が月200~400機のペースで生産されていると聞いて色めき立った。新車の生産を終えたとはいえ、ロータリーエンジン搭載車はまだ世界の道を走っているわけで、そのための補修部品も作り続けられているし、新品のコンプリートエンジンもデリバリーされているのである。エンジン本体の価格は86万951円。今でも新品が手に入るのだ。
ただし、大量生産ではないため、生産は工場の片隅で行われる。生産が行われているマツダ第2パワートレーン製造部には、古い工作機械が並ぶ。コンピューター管理の機材ではなく、ひとつひとつ刃物を組み換えたり歯車を回したりしながらの生産だ。ロータリーエンジンが初めて生産されたのは昭和48(1973)年のことだ。当時の工作機械も少なくないというから、ほぼ半世紀にわたってロータリーを作り続けてきた機械が現役で稼働しているのだ。
製造はほぼ手作業で行われている。作業員はロータリー誕生から接してきたベテランが多く、最大でも10人程度のメンバーで生産しているというから、これはもう骨董品か記念物であろう。ほとんど手組みだから、ベテランの勘と技術に頼っている。東証一部上場の大企業にあって、まるで町工場のように10人の熟練工がエンジンを生産するというのだから、マツダのロータリーへの愛情の高さがうかがえる。
マツダのロータリーエンジンはまだ終わっていない。古くからロータリーを愛用しているユーザーへのアフターフォローであり、一方で近い将来の復活に備えて、ふつふつとパワーを蓄えているようにも感じた。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。