新型コロナウイルスの感染が急速に広がる中、東京都が確保病床数の拡大を急いでいる。最大で見込む6406床を確保できれば、医療提供体制に余裕が生まれるとされているが、感染者としては扱われない検査結果待ちの「疑い患者」が確保病床に入るケースも多く、すでに「満床」が迫っているとの指摘もある。医療関係者は「感染者を即時に受け入れられる病床は『空床数』よりずっと少ない」と警鐘を鳴らす。
都が10日時点で新型コロナの感染者向けに確保している病床は5967床。7月以降の感染急拡大で、6月下旬には1500人前後だった入院患者は、今月10日には3594人に上り、病床使用率は6割を超える。
都は病床数の拡大に向け、7月26日に都内の医療機関に対し、救急医療の縮小や予定する手術の延期などによるコロナ病床の確保を要請。すでに確保している分と合わせ、最大で6406床まで拡大できれば、病床使用率は56%程度に落ち着く計算となる。
だが、医療現場ではその数字以上に病床の使用が進んでいる。PCR検査などの判定が確定する前の患者でも、陽性の疑いがあれば万全の感染防止対策が講じられた確保病床に入院させるケースがあるためだ。この場合、「新型コロナの入院患者」とは扱われず、都が公表する入院患者数にもカウントされない。
今月5日の都のモニタリング会議では、都内全域で1日当たり178人の「疑い患者」を確保病床に受け入れていることが報告された。昭和大学病院(品川区)の相良博典院長は「数字で見える以上に、現場は『満床』に近づいている」と訴える。
同院では38のコロナ病床のうち30床余りに患者を受け入れている。満床になるのは時間の問題で、増床の準備を進めているという。
病院が抱える医療スタッフ数に限りがあることも、「逼(ひっ)迫(ぱく)感」に拍車をかけている。人工心肺装置(ECMO)などを使用する重症患者には医師や看護師、臨床工学技士ら10人程度のスタッフが連携しながら対応する必要があり、入院患者が増えれば空床があっても受け入れられないケースが出てくる。
日本大学板橋病院(板橋区)は56床を確保しているが、病床が空いていても1日に対応できる患者数を上回り、搬送要請を断る事態が生じているという。高山忠輝病院長補佐は「病院内で調整しながら医療スタッフを確保しており、ぎりぎりの状態でやっている」と説明する。
都の担当者は「医療機関が1日に受け入れられる患者数には限度がある」との認識を示し、「確保病床数と、実際に病床が空いているかどうかは別の議論だ」と話した。
相良氏は「即時に受け入れられる病床は、都内全体でも非常に少ないのではないか」と指摘し、実際に即応可能な病床の確保を訴えている。