鉄道業界インサイド

東京五輪のレガシー…鉄道関連は? 新規整備なくとも「質」の部分で成果あり (2/2ページ)

枝久保達也
枝久保達也

 新規に整備された路線なし

 敗戦から19年、廃墟からよみがえった東京に待望のオリンピックがやって来た。1964年大会に合わせて開業した路線としては東海道新幹線や東京モノレール、地下鉄日比谷線が知られるが、実際にオリンピック輸送を担ったのはメインスタジアム国立競技場のある神宮外苑を走る中央・総武線や地下鉄銀座線だった。

 中央・総武線は1964年10月までに10両編成最短2分30秒間隔という、現在と同じ輸送力にまで増強され、夕方の通勤・通学ラッシュに1日最大10万人の国立競技場観客数が加わっても対応できる態勢を確保した。

 また国立競技場最寄り駅の信濃町、千駄ケ谷の両駅に臨時ホームを設置し、御茶ノ水方面から到着する観客は千駄ケ谷、新宿方面から到着する観客は信濃町駅に誘導して利用を分散する対応を行った。地下鉄銀座線も大会期間中、午後5時から6時まで朝ラッシュ並みの2分間隔で運行して混雑緩和に努めた。

 大きな課題とされたのは外国人旅行者の対応だった。国鉄は信濃町、千駄ケ谷と主要ターミナル駅の東京、上野、新宿、渋谷、横浜に外国人向けの案内所を設置。東京駅の案内所にはフランス語、スペイン語を話せる担当者を集中配置し、必要に応じて各案内所と電話で対応していたという。

 地下鉄も駅構内や車内の案内板に英文を追加した他、英文併記のポケット用路線図や、英仏独語の沿線案内パンフレットを作成して配布。さらに主要駅ホームや銀座線車内でテープレコーダー式の英語放送を行っている。

 そして今回の2020年大会。既に首都圏の鉄道網の整備はほぼ終わっており、大会のために整備された路線はなかった。強いて挙げれば、混雑対策として千駄ケ谷と原宿の臨時ホームを再整備したことくらいである。

 だが「量」ではなく「質」の部分で見れば成果はあった。2020年大会に向けて、多言語による案内サインや、ホームドア、エレベーターなどバリアフリー設備の整備が進んだことは大会が残した大きな財産と言えるだろう。

枝久保達也(えだくぼ・たつや)
枝久保達也(えだくぼ・たつや) 鉄道ライター
都市交通史研究家
1982年11月、上越新幹線より数日早く鉄道のまち大宮市に生まれるが、幼少期は鉄道には全く興味を示さなかった。2006年に東京メトロに入社し、広報・マーケティング・コミュニケーション業務を担当。2017年に独立して、現在は鉄道ライター・都市交通史研究家として活動している。専門は地下鉄を中心とした東京の都市交通の成り立ち。著書に「戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団」(青弓社)。

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