ヘルスケア

新型コロナ医療強化、新「山梨モデル」全国的な広がりに期待

 山梨県は、新型コロナウイルス感染拡大の第5波に対し、新たな医療提供体制の増強策を打ち出した。首都圏で問題となっている、医療ケアを一切受けられず自宅療養を強いられ、最悪の場合、死を迎えるといった悲劇を防ぐことが主眼だ。今回の取り組みは山梨県独自の取り組みだが、他県でも実施が可能で、全国的な広がりも期待される。

 自宅療養ゼロを継続

 20日に長崎幸太郎知事が示した新医療対策は大きく3つ。(1)医療強化型の宿泊療養施設の稼働(2)既存型宿泊療養施設の追加(3)療養施設退所後ケアだ。

 山梨県では、軽症者、無症状者を含め全ての感染者を病院か宿泊療養施設で受け入れており、自宅療養ゼロが基本。しかし20日に一日あたりの新規感染者が103人と過去最高を記録し、こういった事態が続けば施設の受け入れ定員を超え、自宅療養にせざるを得ない可能性が出ている。

 「一切の治療を受けられず、自宅で死を迎えるような事態を自治体トップとして許せない」と語る長崎知事の考えに沿い、自宅療養ゼロ継続を維持する。

 医療強化型宿泊療養施設

 現在の宿泊療養施設は看護師が常駐し、健康観察や必要に応じて医師の指示をオンコールで仰いだり、症状がひどくなった場合には重点医療機関へ搬送する。だが、医師が常駐しているわけではないので、宿泊療養施設で点滴などはできない。

 ここへ医師を常駐させ機能を大幅に強化するのが、医療強化型の宿泊療養施設だ。すでに宿泊療養施設として稼働している富士河口湖町の「ホテル東横イン 富士河口湖大橋」には24日から、山梨大学の協力で医師が常駐。点滴や酸素吸入、処方薬の投与などが可能になる。酸素ステーションや“野戦病院”といったレベルを大きく上回る内容だ。

 同時に、宿泊療養施設数も増やす。現在、県内には宿泊療養施設が3施設あり536室を確保しているが、稼働率は8割程度で、入れ替えの作業などを考えるとフル稼働だ。

 新たにホテルなど3施設と宿泊療養施設としての使用について交渉に入っており、すでに最終段階という。最大で600室追加する。施設の確保と同時に、医療スタッフの手配や地元の説得などが欠かせず、調整がつき次第、稼働させる。

 療養施設退所後ケア

 さらに、長崎氏が「前例はほとんどない」と公言する仕組みが、療養施設退所後ケアだ。

 入院や宿泊療養施設滞在者を対象に、本人や家族の同意があり、医師が可能と判断した場合に限り、療養場所を感染者の自宅に切り替えるものだ。感染すれば病院や宿泊療養施設には最低でも10日の滞在が必要になるが、症状が悪化しないと医師が診断した場合には5日程度で退所させ、自宅での療養とする。これにより、施設の受け入れ能力を増やすことができる。

 帰宅させても、後は本人任せというわけではない。毎日の看護師による健康観察、24時間体制のオンコール相談などが受けられる。パルスオキシメーターの貸し出しに加え、自宅療養では外出ができないため、1週間分程度の食料や生活必需品を供給する。県医療部に「退所後ケア班」を新設し、運営を円滑に行う。

 重点医療機関の負担軽減

 これらの一連の施策は、既存の施設やシステムの効率を上げることで、重症患者向けの重点医療機関の負担を軽減させることにつながる。同時に、山梨以外でも活用できる方法となっている。飲食店の運営を継続させたグリーン・ゾーン認証が「山梨モデル」として高く評価されたように、新しい医療提供体制の強化策も、新しい山梨発のコロナ対策になる可能性が高い。(平尾孝)

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