鉄道業界インサイド

万博輸送のメインルートは軌道に乗るのか 大阪メトロ中央線延伸計画 (2/2ページ)

枝久保達也
枝久保達也

 揺らぐ夢洲のIR計画

 ちなみに1970年の大阪万博でも大阪メトロ御堂筋線の延伸区間である北大阪急行電鉄江坂~千里中央間の南北線と、千里中央から分岐して万国博中央口駅まで結ぶ臨時の東西線3.6キロが会場アクセス路線として整備されている。梅田、新大阪から会場まで直結する利便性から、多くの人が北大阪急行経由で万博を訪れた。

 北大阪急行の建設費は南北線と東西線あわせて約115億円(一部は万博協会が負担)。北大阪急行によると会期中の利用者は4150万人。これは1970年度の定期外旅客の9割以上を占める計算だ。会期中の運輸収入については記録がないが、同年度の定期外収入は約29億円で、同様に9割が万博によるものとみなした場合、収入は26億円となる。

 一部のサイトには「万博の旅客輸送だけで建設費が返済できた」との記述もあるが、さすがにそこまではいかなくても建設費の5分の1以上を半年間で売り上げたことになる(そもそも建設費は原価償却によって費用化されるのであって、いくら売上が多くても税金として持っていかれるだけだ)。

 同様の計算を中央線夢洲延伸で試みると、想定来場者数2820万人の41%、つまり1156万人が梅田から夢洲まで14.8キロ(280円区間)を往復利用したとすると、約64億円の収入になる。前述のように大阪市の負担を除いたOTSの設備投資額は約230億円だから、4分の1になる計算だ。

 これを多いと見るか、少ないと見るかは難しいところだが、1970年の万博終了後はニュータウン輸送という新たな役割が与えられた北大阪急行に比べ、IR(カジノを含む統合型リゾート)誘致が新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって全面開業時期が白紙に戻るなど跡地の開発計画が固まっていない中央線が苦労するであろうことは間違いない。

枝久保達也(えだくぼ・たつや)
枝久保達也(えだくぼ・たつや) 鉄道ライター
都市交通史研究家
1982年11月、上越新幹線より数日早く鉄道のまち大宮市に生まれるが、幼少期は鉄道には全く興味を示さなかった。2006年に東京メトロに入社し、広報・マーケティング・コミュニケーション業務を担当。2017年に独立して、現在は鉄道ライター・都市交通史研究家として活動している。専門は地下鉄を中心とした東京の都市交通の成り立ち。著書に「戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団」(青弓社)。

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