ラーメンとニッポン経済

1994-バブルの瓦礫に響くご当地ラーメンの胎動 新横浜ラーメン博物館オープン (3/3ページ)

佐々木正孝
佐々木正孝

 『新横浜ラーメン博物館』の大ブレイクを受け、全国には類似のラーメン集合施設が林立。一時は100以上にも及んだが、現在まで続き、集客に成功しているのは数えるほどだ。それは90年代初頭に姿を現したバブルの残滓、大箱エンターテインメント施設もしかり。1993年に船橋に登場した人工スキー場『スキードームSSAWS』は2002年にクローズし、跡地にはIKEAが建つ。大型屋内温水プールとして横浜に出現した『ワイルドブルーヨコハマ』は2001年に閉業し、跡地は大規模マンションになった。1994年、アジア最大級のディスコという触れ込みで六本木に誕生した『ヴェルファーレ』も2007年にクローズしてしまっている。

 ところがどっこい。同時期デビューの大箱施設ながら、新横浜ラーメン博物館はコロナ禍を経て健在。現在まで累計来館者数は2600万人以上を数える。今なお存在感を発揮している理由の一つは、同館がアクティブに動き続ける運動体であるからだ。海外で人気のラーメン店を逆輸入で誘致したり、「日本で初めてラーメンブームを起こした店」として『淺草 來々軒』を復活オープンしたりと、一石を投じる試みを連発。東京大学総合図書館の司書を経たメンバーが調査・宣伝セクションに参画し、シンクタンクとしての情報発信も見逃せない。

 SNSが普及し、ラーメンガイドブックや評論の意味合いが議論されつつある昨今。シーンをリードする業界団体はなく、寡占の大手企業も出現しないままに個店が各個でサバイバルを続ける。そんなカオスなラーメン界にあり、同館のプレゼンスが求心力になっているのも確かだ。

 「高度経済成長に駆け上がる1958年」をパッケージし、昭和的『三丁目の夕日』世界を味わわせてくれる新横浜ラーメン博物館。輝ける時代の再来を待望する私たちは昭和ノスタルジーの中でラーメンをすすり、何を見るのだろうか。

佐々木正孝(ささき・まさたか)
佐々木正孝(ささき・まさたか) ラーメンエディター、有限会社キッズファクトリー代表
ラーメン、フードに関わる幅広いコンテンツを制作。『石神秀幸ラーメンSELECTION』(双葉社)、『業界最高権威 TRY認定 ラーメン大賞』(講談社)、『ラーメン最強うんちく 石神秀幸』(晋遊舎)など多くのラーメン本を編集。執筆では『中華そばNEO:進化する醤油ラーメンの表現と技術』(柴田書店)等に参画。

【ラーメンとニッポン経済】ラーメンエディターの佐々木正孝氏が、いまや国民食ともいえる「ラーメン」を通して、戦後日本経済の歩みを振り返ります。更新は原則、隔週金曜日です。アーカイブはこちら

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