スポーツカーさながらのフットワーク
もちろん速度が高まると、フロントとタイヤとは同相になって安定性を確保する。時速60キロ以上では最大2.5度、フロントタイヤと同じ向きに転舵するのである。高速安定性はそこでキープするという計算だ。
Sクラスは最大で5度まで位相したが、ボディがコンパクトなので、2.5度で十分なような気がする。全長が長くなったことを、リアステアで相殺する考え方もSクラスと等しい。
驚かされるのは、その作動が自然であり、むしろフットワークの軽快さに結びついていることである。これまで「4WS」と呼ばれる前後ステアのクルマもなくはなかったのだが、制御に不自然さが残り、違和感を覚えることもあった。だがメルセデスのそれは、スムースな感覚である。
とはいうものの、低速でクルリと旋回する感覚は驚きであり、同時にステアリングギア比を10%も切り詰めており、ステアリング応答性がクイックなのである。ステアリングをわずかにステアしただけでノーズが反応する。スポーツカーを彷彿させるほどの軽快なフットワークなのだ。
もちろん足回りを固く締め上げているのではなく、乗り心地を優しく確保した上で、それでも軽快なステップを踏むのだから驚くばかり。メーカーではC200をスポーティーセダンだとは口にしていないが、その軽やかな身のこなしはスポーティーそのものである。
エンジンは直列4気筒1.5リッターターボであり、発進のその瞬間に電気アシストするISGが組み込まれている。スタートは力強いが、そのことよりも俊敏なフットワークが特徴のように思えた。
新型Cクラスは、メルセデスのエントリーモデルとしての使命を終え、新たなコンパクトスポーティーセダンの領域に駒を進めたように思う。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。