趣味・レジャー

「本が売れない時代に毎月9万部」鉄道ファンが紙の時刻表をいまだに買い続けるワケ (1/2ページ)

 電車の乗り換えは検索サイトを使えばすぐ調べられる。それなのに雑誌形式の「時刻表」が販売されており、代表格の大判時刻表は2種類あわせて毎月9万部が発行されている。どんな人が、なんのために買っているのか。鉄道ライターの杉山淳一さんは「もちろん鉄道ファンも検索サイトを使って旅の予定を立てる。しかし、紙の時刻表にしかできないこともたくさんある」という--。

 ■インターネットに「便利」を奪われた時刻表

 ヒット商品には2つの要素がある。「便利」あるいは「楽しい」だ。本で言えば『会社四季報』『ポケット六法』「住宅地図」は「便利」カテゴリー。『少年ジャンプ』など漫画雑誌は「楽しい」カテゴリー。「楽しくて便利」な商品が最強だけど、本の世界では「便利」な商品が廃れつつある。「便利」は「もっと便利」な手段に交代していくからだ。

 鉄道も同じ。船や馬車より便利だから発達した。そしてもっと便利なマイカーやバスに客を奪われてきた。

 月刊時刻表はかつて「便利」カテゴリーの筆頭だった。全国の鉄道を網羅し、運賃の算出方法、航空ダイヤや旅館リストも載っている。しかしご存じの通り「もっと便利」が現れた。インターネットの乗り換え検索サイトだ。

 その機能が増し、精度が高くなるにつれて時刻表の部数は減っていった。乗り換え検索や地図アプリのルート検索は地方のバス会社も対応しはじめており、月刊時刻表に載せきれないニッチな情報も入手できる。こうなると月刊時刻表のほうが不便になってくる。

 ■不便になっても毎月9万部売れ続ける理由

 それでも、老舗『JTB時刻表』(JTBパブリッシング)の発行部数は媒体資料によると平均4万部。ライバルの『JR時刻表』(交通新聞社)は5万部。どちらも全国ダイヤ改正号は増刷している。

 こうして月刊時刻表が刊行され続ける理由は「楽しい」と思って買ってくれる読者がいるからだ。もちろん業務で「便利」に使う人もいるだろうけれど、現在の月刊時刻表は「旅行趣味誌」といえる。

 JTB時刻表の主な読者層は30代~50代で、男性75%、女性25%。「約8割が旅行の計画に使用し、約4割は持参しています」「鉄道旅行に関心のある読者が多く、日常的な情報収集を目的としても購読されています」と説明されている。JR時刻表の読者層も似ているけれども「全国の駅の旅行センターやみどりの窓口でも使用」と説明されているので、運輸業界のビジネス需要がある。

 いずれにしても、時刻表を便利に使ってきた読者の大半は乗り換え検索サイトに「乗り換え」てしまった。現在の月刊時刻表は旅行趣味誌だ。巻頭カラーや付録など、鉄道ファン向けのお楽しみ企画を毎号展開している。

 ■乗り換え検索と月刊時刻表の旅の違い

 筆者は今年の春に日本全国の旅客鉄道路線(廃線になった路線を含めて29332.9km)を乗り終えた。乗り鉄を始めて半世紀。20年ほど前まで、旅の計画といえば時刻表を駆使していたけれども、現在は乗り換え検索サイトを使う。もちろん便利だからだ。

 しかし、全国ダイヤ改正となる4月号と、旅に出る月の時刻表は必ず買う。ダイヤ改正号は変化を探す楽しみがある。旅に出る月の時刻表を買う理由は2つ。「楽しく乗るため」と「書くため」だ。

 「楽しく乗るため」の使い方として、高知県の甲浦(かんのうら)の旅を例に挙げる。いきなり知る人ぞ知る地名を出したけれども、この地を走る阿佐海岸鉄道で、今年から「DMV(デュアルモードビークル)という、道路と線路の両方のモードを備えた車両が実用化される。その取材だ。

 乗り換え検索サイトを使うと、東京近郊にある筆者の最寄り駅から羽田空港へ行き徳島空港へ飛ぶ経路が出る。徳島空港から連絡バスで徳島駅、JR牟岐線と阿佐海岸鉄道を乗り継いで甲浦に至る。

 鉄道で行きたいからと「空路」のチェックを外すと、新幹線で岡山へ行き、特急「うずしお」で徳島駅へ、そしてJR牟岐線と阿佐海岸鉄道を経由する。この2つのルートは「最短」「最安」つまりもっとも便利なルートだ。会社の出張ならこの二者択一になるはずだ。

 ■時刻表を開くと止まらない妄想の鉄道旅

 しかし筆者はここで月刊時刻表を開く。巻頭地図がある。

 甲浦から周辺へ視野を拡大すると、「高知空港へ飛んで、そこから『土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線』に乗り、バスを乗り継いで室戸岬を経由するルート」が見えてくる。あるいは「大阪から高速バスで淡路島を通り抜けて徳島」、または「和歌山港から徳島までフェリー」も楽しそうだ。

 ルートが見えてきたら、それぞれの交通機関について、あらためて乗り換え検索サイトで調べる。ここは時刻表を使わなくてもいいけれども、時刻表を開くとまた発見がある。

 JTB時刻表10月号の358ページ、ごめん・なはり線を見ると「オープンデッキ車両で運転」とある。しかも普通列車扱いで特別料金はいらない。高知駅10時16分発の列車だ。これに乗っちゃおうかな、というわけで予定を組み直す。羽田からの飛行機を遅らせてもいいかもしれない。

 いやまてよ、四国に行くならば、東京発高松行きの寝台特急「サンライズ瀬戸」があるじゃないか。高松着は7時27分。乗り換え検索サイトは、徳島方面へすぐに乗り継げと表示するだろう。しかし、高松で朝飯としようじゃないか。次の発車は何時だ。いやまて、サンライズ瀬戸は、11月までの金曜土曜は琴平へ延長運転すると書いてある。いったん琴平に寄ってみようか……。

 どのルートも楽しそうで、比較しはじめるとキリがない。乗り換え検索サイトのルートにするとしても、さらに時刻表でたどっていくと、その前後を走る列車がおもしろそうだったり、途中で停車時間が長い駅があったり。そこでなにをしようかと妄想旅もできる。乗り換え検索サイトだけで旅を計画したら、こんなに旅を広げられない。

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