宇宙開発のボラティリティ

金欠NASAの打開策 なぜベゾスが宇宙ステーションを建設するのか (3/3ページ)

鈴木喜生
鈴木喜生

 これまでの宇宙開発は国家によって推進されてきた。しかし、その財政のもと運営されてきたNASAもまた近年は強烈な財政難に陥っている。月周回軌道ステーション「ゲートウェイ」の建設が2024年からはじまる予定だが、それと並行して老朽化が進むISSの維持費に40億ドルを費やすことが難しい。そのため、NASAに代わって地球の周回軌道上に上げる宇宙ステーションの建設を民間企業に委託し、NASA自体がそのサービスを受ける顧客に収まろうとしているのだ。

 CLDプロジェクトにおいてNASAは、2021年中に宇宙開発企業2~4社を選定し、最大4億ドルを供給する予定。アメリカの国税からなるこの莫大な資金を求め、すでに技術を持つ在米の老舗企業からベンチャーまでが、こぞって建設プランを発表しはじめた、というのが真相だ。今年10月初頭時点で提出された企画書は約10件と報じられている。

米民間ステーション3機と中国、ロシア、インドが1機ずつ!?

 新しい宇宙ステーション計画を進めているのは米国の民間企業だけでなく、各国も同様だ。

 中国は今年4月、独自の宇宙ステーションのコア・モジュール「天和」を打ち上げ、いま現在も3名のクルーがその構築に取り組んでおり、2022年にはさらに2基のモジュールがドッキングして完成する予定だ。

 2025年にISS運用から離脱する予定のロシアは、今年8月には単独で宇宙ステーション「ロス(ROSS)」を建設することを公表、2025年に最初のモジュールの打ち上げを予定している。

 また、インドも同国初の有人宇宙船「ガガニャーン(Gaganyaan)」の打ち上げと、独自宇宙ステーション計画を公表している。

 2022年に中国宇宙ステーションが完成したあと、2024年に米民間の「アクシオム・ステーション」、2025年にロシア宇宙ステーション「ROSS」、2027年に米民間の「スターラブ」の建設がはじまれば、ISSも含めて5種のステーションが地球周回軌道上に存在することになる。

 また、ISS退役後、2030年にブルーオリジンの「オービタル・リーフ」、さらにインドのステーションが打ち上れば計6機。そのころには月周回軌道を航行する「ゲートウェイ」も存在しているだろう。

 世界が四半世紀に渡って注力してきたISS計画が終わろうとしているいま、まったく新しい宇宙ステーションの時代がはじまろうとしているのだ。(2021年11月8日10:53更新)

出版社の編集長を経て、著者兼フリー編集者へ。宇宙、科学技術、第二次大戦機、マクロ経済学などのムックや書籍を手掛けつつ自らも執筆。自著に『宇宙プロジェクト開発史大全』『これからはじまる科学技術プロジェクト』『コロナショック後の株と世界経済の教科書』など。編集作品に『栄発動機取扱説明書 完全復刻版』『零戦五二型 レストアの真実と全記録』(すべてエイ出版社)など。

【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。アーカイブはこちら

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