ライフ

問題深刻、高齢化で「8050」から「9060」へ 予備軍拡大の懸念も

 高齢の親が長年引きこもる子供を支える「8050」問題と呼ばれる家族形態が親子の高齢化・長期化により、「9060」問題へと移行し始めている。新型コロナウイルス禍で、不登校の小中学生は過去最多の約19万6千人に上り、引きこもり予備軍拡大の懸念も高まっている。高齢化・長期化が進むほど、当事者との関わりが困難になる傾向も強く、支援者らが早期介入の必要性を訴えている。

 「夜は眠れていますか」

 「…」

 「少しでもお声を聞かせていただけないですか」

 「…」

 東京都葛飾区にある自宅の部屋にこもった40代後半の男性は、区の高齢者相談センターの女性担当者がふすま越しに呼び掛けても押し黙ったままだった。

 男性は80代の母親と50代の姉との3人暮らし。母親には認知症の症状があり、「弟が母親をたたいたり、『ばかやろう』と大声で怒鳴ったりする」と姉からケアマネジャーに相談。センターに高齢者虐待の疑いがあると連絡があった。

 男性は不登校で高校を中退して以来、30年近く引きこもりを続けている。女性担当者は男性のもとを20回以上訪れ、支援の手をさしのべたが、男性は一言も発することがない。玄関前で鉢合わせしたときにも、無言で走り去られた。結局、母親は本人の希望で高齢者施設に入ったが、男性は支援につなげられていない。

 高齢者相談センターでは介護や高齢者虐待などの相談を受ける中で、8050問題に直面することも少なくない。女性担当者は親が90代、子供が60代という9060問題への移行も実感しており、「高齢化するほどこだわりが強くなり、関わりが一層難しくなる」と重く受け止めている。認知症があり、寝たきり状態の90代の母親と引きこもりの70代の息子の家庭のケースでは、訪問入浴などで看護師らが出入りするのを息子が嫌がり「今日はそういう気分じゃないから帰ってくれ」と追い返され、母親に必要なサービスを行えなかったこともあったという。

 長引くコロナ禍で、子供や若者の社会的孤立も深刻化し、新たな引きこもり予備軍を生み出す恐れをはらんでいる。文部科学省の令和2年度の調査では、小中学生の不登校が過去最多の約19万6千人だったことが判明。46・9%が「無気力・不安」を主な要因に挙げ、90日以上の長期欠席者は54・9%に上った。

 不登校や引きこもりの若者にアウトリーチ(訪問支援)型の活動を行うNPO法人「高卒支援会」によると、コロナ禍で引きこもり傾向の不登校が増え、新規の相談件数は昨年から約2倍に増えた。同会では不登校や引きこもりの経験者が寄り添う「ピアサポート」も活用しながら時間をかけて解決に取り組むが、強引に自宅から連れ出す「引き出し屋」によるトラブルも相次ぎ、訪問支援に向けられる目は厳しい。

 竹村聡志理事長は「『学校に行かなくていいよ』『好きにさせてあげて』という考え方が主流になりつつあるが、引きこもりの長期化を防ぐためにも、早期に介入することが重要だ」と理解を求める。

 行政機関の課題もある。各自治体には学校復帰に向けた指導や支援を行う「教育支援センター」などが設置されているが、文科省の調査で学校内外の機関で相談や指導を受けた児童・生徒は65・7%にとどまる。引きこもり支援は厚生労働省の所管となり、縦割り行政の弊害で、不登校から引きこもりへの引き継ぎがスムーズに行われていないとの指摘もある。

 不登校・引きこもり予防協会の杉浦孝宣代表理事は「教育現場では不登校とコロナ禍の登校自粛の区別がつかないとの声もある。8050問題につなげないためにも、省庁間の連携を強化し、積極的に支援に乗り出すべきだ」と話した。(本江希望)

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus