鉄道業界インサイド

コロナ禍で相次ぐ鉄道運賃改定…値上げか値下げか 私鉄各社のしたたかな戦略 (2/2ページ)

枝久保達也
枝久保達也

 もうひとつ「衝撃」の運賃改定を発表したのが小田急電鉄だ。11月8日に「子育てしやすい沿線の実現に向け、小田急は走り出します」として、「こどもの笑顔をつくる子育てパートナー」であることを宣言。そして2022年春に、小児運賃(小学生)のICカード利用時の運賃を線内一律50円とすることを発表したのである。例えば、新宿から小田原までの普通運賃(IC運賃)は891円、小児運賃は445円だ。これが50円になるのだから、9割近い割引となる。

 大胆な運賃値下げは“広告料”

 しかし、ここにはしたたかな戦略がある。運輸収入全体に占める小児運賃の割合は微々たるものであり、これを大幅に値下げしたところで経営への影響は少ない。小児運賃が安いなら車でなく電車で出かけようとなれば、同行する親の運賃でプラスになる。今後、人口減少が本格化する中で、子育て世代の流入と定住は持続的な経営に必要不可欠だ。

 もちろん、それは小田急に限ったことではなく、今後各社各路線間で顧客の奪い合いが激化することを意味している。そんな中、大胆な運賃値下げにより小田急沿線は子育てしやすいというイメージが広がるのなら、広告料として安いものだ。

 過去20年、デフレ経済や都心回帰による利用者の増加を背景に、大手私鉄は消費税改定を除き、ほとんど運賃改定を行わなかった。しかし、コロナ禍により経営状態は大幅に悪化。またテレワークの普及などでコロナ収束後も利用は元通りにはならないと見られている。北総鉄道のような例外はあるとしても、中長期的には値上げが避けられない中で、メリハリをつけた戦略的な運賃設定が広がっていくことになりそうだ。

枝久保達也(えだくぼ・たつや)
枝久保達也(えだくぼ・たつや) 鉄道ライター
都市交通史研究家
1982年11月、上越新幹線より数日早く鉄道のまち大宮市に生まれるが、幼少期は鉄道には全く興味を示さなかった。2006年に東京メトロに入社し、広報・マーケティング・コミュニケーション業務を担当。2017年に独立して、現在は鉄道ライター・都市交通史研究家として活動している。専門は地下鉄を中心とした東京の都市交通の成り立ち。著書に「戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団」(青弓社)。

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