外務省ができないミリ・ミリ(軍・軍)外交
野口裕之の軍事情勢「ミリ・ミリ」
自衛隊が外国軍との協議や情報交換といったミリタリー=軍同士の接触を表現する際の隠語である。《イスラム国=ISIL》による邦人斬首を受け、日本政府は防衛駐在官=駐在武官を増員中だが「軍人には、軍人にしか話せない情報がある」と理由を説明した。そうした軍にしか果たせない役割の「芽」は、将来の幹部自衛官=将校を育てる防衛大学校(神奈川県横須賀市/在校生2000人)の段階で、早くも伸びていく。
士官候補生の国際会議
国際情勢・安全保障問題を討議する《国際士官候補生会議》は、まさに「新芽」に良質な「肥料」を与える貴重な舞台。小原台(防大の愛称)の風物詩となった。18回目の2014年度は7日まで8日間の日程で、初参加のアルゼンチンはじめ豪州/ブラジル/カナダ/中国/フランス/ドイツ/インド/イタリア/マレーシア/ミャンマー/フィリピン/韓国/シンガポール/スウェーデン/タイ/チュニジア/英国/米国=19カ国の陸海空軍士官学校(三軍種統合=防大型アリ)から「将校の卵」30人が集まった。
テーマは《リーダーシップ》。各国士官学校の現状が発表され、学生綱領も披露された。防大では 一、廉恥 一、真勇 一、礼節 という具合。さらに「各士官学校が過去~現在、いかなる環境変化に直面→対応し、将来どのような環境を予測するか?」「リーダーシップの理想と現実」に関しても活発に議論された。「ロボットの戦場投入がもたらす倫理・心理学的課題」「情報技術への過度の依存で生じるリスクとは?」など専門分野とも「格闘」した。
昨年のテーマの一つは《軍におけるジェンダー》だった。ジェンダーを正直に申告させる軍も出始めており「今までとは違うスタイルのリーダーシップ研究が求められている」ためだ。ドイツの女性士官候補生は、詳細なデータを基に分析を加え「ジェンダーの違いで、指揮の執り方にも違いが有って当然」と結論付けた。
かくして、国に「国柄」が有る如く、軍にも「軍柄」が有ると、互いに認識するに至る。
防大留学生は「財産」
士官候補生が帰国し2週間ほどたった22日、防大では卒業式が挙行される。外国士官学校などが派遣した20人近い本科留学生も、恒例の「帽子投げ」を経験する。留学生の母国は、士官候補生会議出席国以外でいえばインドネシア/モンゴル/ベトナム/ルーマニア/カンボジア/東ティモール/ラオスなど13カ国。現在、本科=大学に9カ国110人(過去合計283人)、研究科=修士・博士課程に6カ国20人(過去合計138人)が在籍する。
本科の場合、通称「0年生」と呼ばれるが、多くは初体験の日本語を1年間猛特訓。その後原則1~4学年まで、ほぼ日本人と同じく厳しい全寮生活・授業・訓練に臨む。制服も同じ。8キロの遠泳や、重さ10キロの装備を背負い、高低差50メートルの7キロコースを走る競技会にも挑戦する。むしろ、祖国の士官学校に行かず、防大で軍歴を重ねる留学生は多い。ベトナムの留学生は博士課程まで10年を小原台で過ごし、今は軍工科大学で准教授(陸軍少佐)になった。
かつて、自衛隊陸将として米軍と折衝してきた防大の山口昇教授(63)は留学生を「財産」と形容するが「財産」は時の経過とともに価値を上げる。将軍に昇進すれば大統領・首相のブレーン就任も有り得る。退役後は政治家に転身するかもしれない。実際、タイの海空軍トップ(大将)は防大卒業生。特に海軍トップは、陸海自衛隊トップ(幕僚長)と防大同期で「付加価値」まで付く。
モンゴルのツォグトサイハン・セレゲレンバートル学生(24)も将来有望な人材だ。胸には《服務優秀者賞》が輝く。リーダーシップを発揮し、日本人学生を含め学生の模範となった証し。士官候補生は他分野のエリートと異なり、知力に加え体力・気力まで要求される。モンゴル人留学生18人の内、6人が相撲部に在籍。セレゲレン学生は昨年、全国学生相撲個人体重別選手権・65キロ未満の部で優勝した。「日馬富士は体が小さくてもよい相撲を取る。大きい白鵬は勝って当然」と言い切る辺りに、軍人向きの優れた素地が透ける。
東ティモールからも11人
カンボジアの留学生はゼミのレポート《民主主義における投票の意義》で最優秀だった。インドネシアの留学生(0年生)は日本語研修生スピーチ大会で《違法操業の撲滅》を発表、一回も原稿に目を落とさなかった。しかも、原稿の「である」調が、声に出す時点で「です。ます」調にアレンジされていた。反面、国や個人により分数の足し算ができない留学生も来る。戦渦で初中等教育を受けられなかったなど、原因は哀しい。
独立(2002年)間もない東ティモールには士官学校がない。従って現役将校・下士官が選抜され11人が留学中。マヌエル・グテレス・ソアレス海軍少尉(28)は防大の上級課程・海自幹部候補生学校(広島県江田島市)への入学を許された。「帰国後は時間厳守や鉄拳制裁ナシなど防大文化を導入し士官学校を創りたい」と、夢を抱く。
ジェロニモ・パスクアル・ダコルス海軍少尉(28)は「東ティモール軍には整備という文化がない。故障すれば放置してしまう。モノを大事にする自衛隊文化を学び艦艇整備のプロを目指す」と語る。
女性のジュリア・ダコスタ陸軍軍曹(27)は「日本人の同期に支えられた」と感謝。ただ「軍事機関の防大は、もっともっと厳しく教育すべき。東ティモール軍では宗主国ポルトガルの教官に8時間も水に漬かっているよう命じられる。『貴様みたいに弱い輩がいると組織が迷惑する。出ていけっ!』などといわれる」と頼もしい。
ところで、韓国人留学生が軍曹にこうささやいたとか。
「子供時代から反日教育を受けてきた。周りも日本の悪口ばかり。でも防大に来て『違う』と思った。同期は分かりやすい日本語でしゃべってくれ、自分が走らないときに一緒に走ってくれた。大切にされていると分かった。韓国に帰って、日本の悪口を聞いたら『違う』と言ってやる」
なるほど。防大留学生は紛れもなく「財産」である。(政治部専門委員 野口裕之/SANKEI EXPRESS)
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