実走中に測定、VW不正暴く 米地方大「弱小チーム」に脚光

 

 世界中を揺るがしている独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)による排ガス規制逃れの不正を暴いたのが、米国の地方大学の弱小研究チームだったことに驚きの声が広がっている。独自開発した走行中の車の排ガスの成分を測定できる小型装置を使用。施設内での疑似走行試験では規制基準をクリアしているのに、実際の走行中は基準を大きく超えていることが判明し、規制をくぐり抜ける違法ソフトを搭載していることを突き止めた。昨年5月に試験結果を公表し米当局が調査に乗り出した。チームの責任者は「1年半も前の試験結果がこんな重大事になるなんて」と自身も驚いている。

 お手柄をあげたのは、米東部ウェストバージニア大学の「代替燃料エンジンと大気汚染物質センター(CAFEE)」に所属する5人のチーム。先週の不正発覚直後からロイター通信や米自動車雑誌カー・アンド・ドライバー(電子版)などの米メディアが大きく伝えた。

 NPOから助成金

 「われわれの一連のテストが、おぞましいものを白日にさらしたんです」

 チームを率いる技術者、ダニエル・カーダー氏(45)は米メディアにこう語った。

 報道によると、チームは2012年に米非営利団体(NPO)「クリーンな輸送に関する国際会議」から5万ドル(約600万円)の助成金を受け、ディーゼル車の排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)の測定を委託された。メンバーの一人は、「学内でもマイナーな存在だったチームが助成金を獲得できたことに大喜びだった」と、当時を振り返る。

 測定対象は、VWの乗用車「パサート」と「ジェッタ」、独BMWのスポーツタイプ多目的車「X5」の3車種。試験はもともと、欧州メーカーのディーゼル車の環境性能の高さを証明するのが目的だったというが、驚くべき結果が出た。

 違法ソフトを解明

 チームは、ローラーの上を疑似走行する通常の測定装置ではなく、実際に路上を走行しながら測定できる小型装置を使い、2013年から米西海岸で試験を実施。その結果、BMWのX5は米環境保護当局(EPA)が定める規制基準の範囲内だったが、VWのジェッタは基準の15~35倍、パサートは5~20倍ものNOxをまき散らしていることが判明した。

 さらにチームは研究施設内での疑似走行試験では基準をクリアしていることに不審を抱き、車を調査。ハンドルの位置や速度、エンジン出力などから施設内での走行試験と検知した場合は排ガス浄化機能がフル稼働し、通常走行と検知すれば、エンジン出力を最大化するため、浄化機能を低下または停止させる違法ソフトを搭載していたことを解明した。

 試験結果の公表を受け、EPAがVWに対する調査を開始。VWは当初、排ガス機能に問題があるとして50万台のリコールを申し出た。しかし、その対応を疑問視したEPAが「16年型製品を承認しない」と警告したため、VWはやむなく違法ソフトによる不正を認めたという。

 「学べなかったか」

 地方大学の少人数のチームが、世界一を争うドイツを代表する大企業を追い詰めたことに世界が驚愕しているが、責任者のカーダー氏は、「環境汚染は見たくないが、われわれには成功も失敗もない」と、いたって冷静。チームは15年前にも米重機大手キャタピラーなど7社が大型ディーゼル車に同様の違法ソフトを搭載していた問題の解明に協力しており、カーダー氏は「過去の過ちから学べなかったのか」と苦言を呈した。(SANKEI EXPRESS