韓国海軍の済州島基地…脅せば腰砕け 「対中恐怖症」例はいくらでも在る

 

【野口裕之の軍事情勢】

 米太平洋軍司令官ハリー・ハリス海軍大将(59)は米軍時間2月23日、上院軍事委員会で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設について、計画から「2年少し遅れ、2025年になるとみている」と表明し、日本政府は外交ルートを通じて抗議した。しかし、日米両国にとり、もっと厳しく監視する対象に浮上した基地が在る。

 《韓国海軍の済州(チェジュ)島基地》

 2月26日に完工式典が行わたが、中国海軍艦艇の「拠点」と成りかねない。以下説明するが、一言で言えば小が大に事(つか)える《事大主義》病がまたぞろ発症しそうな気配なのである。

 事大主義病発症の危険

 済州島近海は、中国に海路運び込まれるエネルギーの8割が通る海上交通路に当たる。米国は航路を扼する要衝の島に基地を建設する韓国の計画を、強く支持した。ところが本来、韓米国益に資する基地誕生の前途は多難。済州島の150キロ西南に「爆弾」を抱えているせいだ。

 《離於島(イオド)/中国名・蘇岩礁》

 島と命名されているが、干潮時にも岩頂が海面下にある暗礁で、韓中両国は互いに「自国のEEZ(排他的経済水域)に在る水中暗礁」と主張する。基地建設に、中国は恫喝の凄味を飛躍的に効かす。現に、基地完成が目前に迫った1月31日午前と午後、離於島南方上空の韓国・防衛識別圏(KADIZ)に中国軍の偵察機と早期警戒機が無断で入った。

 KADIZは2013年12月、中国の離於島を含む防衛識別圏設定に対抗して設けられた。韓国が珍しく中国に強硬な態度を示したかに見えるが、日韓軍事筋は、離於島の韓中管轄権問題に韓国の一部政府・軍関係者は「おびえている」と解説する。韓国の関係者の目線の先には尖閣諸島(沖縄県石垣市)が在る、という。

 中国海警局の、とても海上警察とは思えぬ重武装巨大公船が、来る日も来る日も日本の領海や接続海域に侵入する状況が「明日の離於島」に映るのだ。「世界屈指の海上警備力を誇る日本でさえ、中国の大攻勢に大いに苦戦している。韓国の海上警備力では到底刃が立たない」と、懸念は極に。03年6月完成させた高さ76メートルもある離於島・海洋科学調査施設も一部関係者にとり、今となっては後悔の種だ。

 日本も韓国を笑えぬが、まともな国家なら主権を守るべく、断固たる姿勢を打ち出す。だが、韓国は強い相手には手を出さない。離於島を手に入れたときもそうだった。

 権利を主張した1950年代には韓中両国に国交はなく、わが国固有の領土・竹島同様に朝鮮戦争(1950~53年休戦)のドサクサに紛れての「火事場泥棒」的所業であった。当時の中国海軍は貧弱で、中国海軍が現在のように質量共に著しく大強化されるなど、夢にも思っていなかったはず。

 THAADで「米中天秤」

 さて、韓国海軍の済州島基地がなぜ中国海軍の寄港拠点に成り得るのか? 答えは、《THAAD(サード)=終末高高度防衛》システムの導入をめぐる、米中間を「行ったり来たりする」韓国の見苦しい姿に見いだせる。

 THAADシステムは短・中距離弾道ミサイルの動きを捉え、着弾体勢=終末段階まで破壊できぬ場合に迎撃する防御兵器。ただ、システムを構成する高性能レーダーが、中国本土の広い地域を監視可能なため、中国は韓国を脅しまくった。

 当初は供給元・米国に導入をOK→中国の恫喝で「導入おとぼけ作戦」→北朝鮮による核+ミサイル開発に仰天→それでも逡巡→米国が激怒→慌てて米国と協議へ…との顛末は小欄で触れた。

 脅せば腰砕け。効果抜群の韓国に向け、中国共産党中央軍事委員会の機関紙《解放軍報》は2月18日、中国空軍の爆撃演習を紹介しながら、こう報じた。

 《(THAADが原因で)開戦に至れば、中国空軍の爆撃機編隊は1時間で韓国のTHAAD基地や日本のミサイル防衛システムを破壊できる》

 《THAADシステムを最優先の攻撃目標にセットする》

 《開戦直後、真っ先に出撃する20機は数百発の巡航ミサイルを発射しTHAADシステムを破壊。再度設置する試みも阻止できる》

 共産党機関紙系《環球時報/2月16日付》も、社説とは思えぬほど品がなかった。

 《中国の足が水に浸かったら、ある者は腰、さらには首まで浸かることになると確信する。誰であろうと最低ラインを越えれば、決然と代価を支払わせる》

 中国のこわもてに、韓国は耐えられない。実際、THAADミサイルの発射基地を米軍の計画より後方に下げ、ソウル以北の迎撃精度を著しく落とす、危ない妥協案まで浮上し始めた。

 「碁石」に転落と嘲笑

 済州島基地の計画にも、中国に配慮したともとれる、逃げ道を設けた?と推測する。例えば、《民軍複合型観光美港》なる基地のデザイン。《軍民》ではなく《民軍》と強調するように、基地には海軍艦艇20隻を係留できる一方で、15万トン級クルーズ船2隻も入港可能だ。そのためのクルーズ・ターミナルも併設される。基地建設反対派国民のみならず、中国を念頭に、観光拠点を色濃く演出し、軍事色を薄めたい底意を感じる。

 「民軍」供用開始は17年7月で、軍事同盟相手・米国の海軍艦艇も当然寄港し、中国の強烈な反発は必至。韓国がTHAADシステム導入で演じる「米中天秤」の醜態が、済州島基地を舞台に再現される必然性は非常に高い。韓国の「対中恐怖症」例はいくらでも在る。

 韓国政府はわが国との軍事情報保護協定締結を延期しながら12年夏、中国と同種の協定を結ばんとした。締結されていれば、韓中が軍事情報を共有し、米国が韓国に供与する兵器や軍事情報が中国に漏れる危険が伴う。韓国の“戦略”はもはや、理解不能だ。

 済州島基地には中国クルーズ船が入り、経済的にも潤う。韓国にカネを落とし、恩を売る中国の次の要求は「中国漁船の不法操業に向けた中韓共同取り締まり」名目の海警局公船入港。やがて、中国のクルーズ船や公船に加え「親善/共同訓練」名目の海軍艦艇の寄港が激増、済州島の基地機能はそがれていく。

 環球時報は《THAAD配備で中米軍拡競争が起き、韓国は独立性を今以上に失い、中米が奪い合う『碁石』に転落する》と、韓国の将来を嘲笑した。

 この見方はちょっと違う。既に、米中が奪い合う碁石に…。(政治部専門委員 野口裕之/SANKEI EXPRESS