本当の自分とは何か 考えさせられる物語 エディ・レッドメイン、トム・フーパー監督 映画「リリーのすべて」
現在でいうところの「トランスジェンダー」や「性同一性障害」といった状態に置かれ、苦しみ抜いた結果、世界で初めて男性から女性への性別適合手術に踏み切ったデンマークの画家、リリー・エルベ(1882~1931年)をご存じだろうか。そんな“彼女”の壮絶な体験をベースに描いた伝記ドラマが、オスカー監督、トム・フーパー(43)の手により「リリーのすべて」として映画化された。ちなみに原題は「The Danish Girl」(デンマークの少女)。
人間は自分のアイデンティティーが不安定な状況に陥った場合、どんな思考を展開し、どんな生き方を模索するのか? 主演の英俳優、エディ・レッドメイン(34)は自分なりに脚本を解釈し、演技を通して誠実に提示してみせた。
「一番難しかったのは感情面の役作りでした。私はリリーの気持ちや考えを理解しようと努めたのです。特に1920年代という時代に性別適合手術を決断したリリーの気持ちですね。リリーに手術以外の選択肢はありませんでしたが、その生き方こそがリリーのあるべき本当の姿なのです。もちろん手術を受けることは危険な賭けであり、命を落とす可能性もありましたよ」。大きな仕事を終えたレッドメインは現地報道陣にホッとした表情を見せた。
《1926年、デンマーク・コペンハーゲン。画家のアイナー・ヴェイナー(レッドメイン)は、同業の妻、ゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)から女性モデルの代役を頼まれ、心の奥底に潜んでいたもう一人の自分の存在を強烈に意識するようになった。いつしか自分を「リリー・エルベ」と名乗り出し、女性として新たな自分を生き抜く決心を固めたが、女性としての心と、生まれ持った男性の体との不一致が引き起こす激しい違和感に苦しみ…》
レッドメインといえば、2014年の主演作「博士と彼女のセオリー」で筋萎縮性側索硬化症(ALS)と闘う英国の理論物理学者、スティーブン・ホーキング博士(74)を熱演し、オスカー像を手にしたのがわずか1年前の話。積極的に難役を選び、役作りを楽しんでいる感すらある。記者はプロモーションで来日したフーパー監督を訪ね、俳優レッドメインの魅力を問うと、開口一番「ものすごく入念な準備をして撮影に臨む俳優ですよ。この映画でエディは役作りに1年間もかけました。そんな俳優はちょっと見当たりませんね」と答え、レッドメインののめり込みぶりには脱帽といった様子だった。
レッドメインは現地報道陣に対し、具体的な役作りを説明している。「脚本をもらった後、まずはトランスジェンダーのコミュニティーに足を向け、体験談を聞かせてもらいました。この結果、トランスジェンダーとはこういうものだ-と一つにくくれるものではなく、人それぞれ違った体験をしているということに気づきました。次にリリーの回顧録や本作の原作小説を読み込み、僕自身の中に存在するリリー的な要素も見つけ出しました」。ホーキング博士に肉薄して栄えあるオスカー像を手にしたのだから、当座1年ぐらいはホッと一息…とはいかないところが、レッドメインがオスカー俳優たるゆえんなのかもしれない。
ゲルダは最初こそ夫の“奇行”に戸惑うものの、少しずつ考えを理解し、献身的に支えていく-。すでに本作の企画に着手していた約7年前、フーパー監督が最も心を動かされた部分だった。「ゲルダの慈悲深さ、ゲルダが夫に注いだ無条件の愛を見てほしいと思いました。最終的に夫が身体的に女性となり、元夫になったとしても、依然として愛情が残っているんです」
レッドメインは現地報道陣の取材にもう一つ見てほしいというポイントを挙げている。「この作品のテーマの一つは『愛とは何か』ということ。愛とはとても複雑なもので、素晴らしくて、他の何にも替え難いものです。この物語の核心はラブストーリーだと思います。同時に『本当の自分でいる』ということは何かと考えさせる物語でもあるでしょう。僕はこの作品に出演して気づきました。真の自分でいるということは一見すごく単純なことのように見えるけれど、実はそうではない。リリーが生きた時代から100年近くたった現代でも大変なことなのです」。3月18日、全国公開。(高橋天地(たかくに)/SANKEI EXPRESS)
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