大きな挑戦とチャンス 演じがいがあった 俳優 キアヌ・リーブスさんに聞く

 
「アクション俳優というイメージとは違う部分も見てほしい」と語るキアヌ・リーブスさん=2016年3月11日(ブレイン・トラスト提供)

 大のアクション映画好きを公言し、自らも米ハリウッドのアクションスターとして名をはせたキアヌ・リーブス(51)。25日から全国で公開される主演の法廷スリラー「砂上の法廷」(コートニー・ハント監督)ではアクションを封印し、法律の知識と言葉を武器に“知的格闘技”を展開していく、正義感にあふれた敏腕弁護士を熱演してみせた。

 違った役どころ、喜んでほしい

 SANKEI EXPRESSのメール取材に応じたリーブスに対し、敬愛するアクションスター、千葉真一(しんいち、77)がノンアクションの本作に挑んだあなたを見たら?と水を向けると、リーブスは「アーティストとして僕がこれまでとは違った役どころに挑んだことを、千葉さんが喜んでくれたらうれしいですね」との回答を寄せた。

 《長年、家族に激しい暴力を振るい、思うままに従わせてきた資産家の大物弁護士、ブーン(ジェームズ・ベルーシ)が自宅で殺害され、捜査当局は17歳の息子、マイク(ガブリエル・バッソ)を容疑者として逮捕した。マイクは捜査当局はおろか、自分の弁護士となったラムゼイ(リーブス)や、ずっと何かにおびえている母親(レニー・ゼルウィガー)にさえも口をきこうとしない。ほぼ“丸腰”で臨んだ刑事裁判で、検察側の証人たちがマイクに不利な証言を重ねていく中、ラムゼイは彼らの証言に見え隠れするわずかなほころびに気づく》

 役作りを振り返ったリーブスの返事からは、クランクイン直前に謎の緊急降板を遂げたダニエル・クレイグ(48)とはまたひと味違うであろうテイストを短期間で作り上げた自負心が見て取れた。「映画の舞台となったニューオーリンズの特徴をリサーチする作業は楽しかったし、実際に弁護士や検事といった法曹関係者たちに取材もしました。話し方については、アクセントも含めてしっかりと身に付けましたよ。俳優として大きな挑戦であり、チャンスでもありました。複雑なキャラクターでしたが、演じがいがありましたよ」

 司法制度への違和感

 まず本作の面白さに挙げたのは、すべての登場人物がそれぞれ何らかの秘密を抱えているにもかかわらず、映画のタイトルが『The Whole Truth』(すべての真実)と名付けられた点だ。

 「司法制度の興味深いところでしょう。刑事裁判の被告が、誰がみても『怪しいな』と感じてしまうような、罪を犯している可能性の極めて高い人物であったとしても、彼らには弁護士が付いて、起訴事実を法廷で争うことになる。それはもちろん、公正さと法の正義が厳格に求められるためなのですが、そうは言っても、弁護士は内心怪しいクライアントだ-と考えたならば、一人の人間として『あなたは刑務所に収監された方がいい』と、なぜ言ってやれないのだろうか。僕はいろいろと考えさせられました」。リーブスは、被告が一点の曇りもなく、ただ有罪であることをきゅうきゅうとして証明することに重きを置いた司法制度への違和感も併せて指摘した。

 ブーンとラムゼイ-懇意の2人が絡むシーンについては、特に注意深く見てほしいという。「作品の冒頭で観客はある一つの情報を得ます。また最後に挿入される2人のシーンでは『ああこうだったんだ』と別の情報を知ることになります。彼らの言動は一致していないのです。ある意味、この作品自体を体現しているとも思います」。常に2人が何かの振りをしながら嘘をついていると考えてもらってもいいと、リーブスは断言した。

 さて、俳優という職業柄か、人に嘘をついたり、見破ったりといった心理戦が好きな方なのかもしれない。リーブスは「僕は嘘を見破るのは割とうまいですよ」と前置きしたうえで、「嘘を見破ることができるか否かは、嘘をつかれた側がどこまで真実を知りたいのか-という欲求の強さの度合いにかかっているでしょう。もっと真実を知りたいと思えば、あえて相手がつく嘘を許したままにしておくこともあるでしょうし、逆に真実を知りたくないならば、嘘から目を背けてしまうかもしれませんからね」と、自らの経験を踏まえた嘘への対処法を披露してくれた。(高橋天地(たかくに)/SANKEI EXPRESS

 ■Keanu Reeves 1964年9月2日、レバノン・ベイルート生まれ。カナダ・トロントで育ち、テレビ番組や地元の舞台作品に出演したのち、米ロサンゼルスへ移った。94年の映画「スピード」でスターダムを駆け上がり、99年・2003年「マトリックス」シリーズでアクションスターとしての地位を確立した。このほか主な映画出演作は、13年「47RONIN」など。