思いやれる世界
「イーハトーボの劇列車」は、賢治が幾度となく通った東京と、その道行きの夜行列車が舞台。列車はあの世とこの世をつなぐ「銀河鉄道」を思わせ、車掌は死にゆく人々から、心残りを託した「思い残し切符」を預かり、生きている人々へと届けていく。劇中には、オノマトペ(擬音語)をはじめとする美しい言葉があふれ、童話の登場人物を想起させるキャラクターが出てくるなど、井上の賢治への愛情が伝わってくる。「(東京など都会に)理由もなく憧れ、ひたすらぺこぺこ頭をさげ、中央のおっしゃることはすべて正しい、と決め込んでいた考え方が次第に姿を消すはず」「デクノボーたちの思いが三代四代と伝えられていくうちに何かが変わる」。賢治のせりふの数々は、賢治の夢や希望を観客に託す、井上の「思い残し切符」でもある。
大和田にとっては、物語の終盤、農民が託す「広場があれば」という「思い残し切符」が印象的だったようだ。「広場とは、想像できる場所、相手を思いやることができている世界のことだと思います。最近、スマートフォンの画面に見入って、すぐ横に立つ高齢者に気づかない人を見ることがあります。人々の想像力はますます欠けてきているんじゃないでしょうか」