化学兵器の全廃を世界に約束して国際社会の注視が弱まっている間隙を突き、内戦が続くシリアのアサド政権が反転攻勢に出て、反体制派支配地域への空爆を一段と強化している。政府軍は、ドラム缶など円筒形の物体に火薬や石油類を詰めた「たる爆弾」と呼ばれる“新兵器”を使って空爆を実施。ヘリコプターから一般市民が集まる場所にたる爆弾を投下し、この2週間で数百人の民間人が犠牲になったとみられる。一方、シリア難民の数は増え続け、すでに230万人に達した。来春で、「アラブの春」の影響を受けて始まった民主化要求運動が転化したシリアの内戦は、丸3年になるが、状況は泥沼化している。
■市場や病院も…
フランス通信(AFP)によると、反体制派が支配するシリア北部の中心都市アレッポで28日、政府軍のヘリコプターが複数のたる爆弾を野菜市場と病院の横に投下、少なくとも25人の一般市民が死亡した。
英国に本部を置くシリア人権監視団は、「死亡者は女性2人と子供4人を含み、数人が重体になっているため、犠牲者は25人からさらに増える可能性がある」と発表した。この空爆をシリア人権監視団は「虐殺」と非難。アサド政権は今月15日以降、アレッポとその周辺地域にたる爆弾による大規模な空爆を実施し、すでに死者は400人以上にのぼり、そのほとんどが一般市民だとしている。
たる爆弾は、米軍がベトナム戦争で多用したナパーム弾に似た兵器で、標的が絞りにくく燃焼性が高いため、一般住民の被害増加につながっている。人権団体や欧米諸国は、たる爆弾による攻撃を「無差別」かつ「非合法」だと非難しているが、アサド政権側は「テロリスト」を標的にしているだけだと主張している。
■強気の姿勢強める
すでに12万人以上が犠牲になっているシリア内戦は、アサド政権が化学兵器の全廃を約束したことで、解決に向かっているかのような見方がされているが、これは全くの錯覚だ。アサド政権は「化学兵器全廃」というカードを切り、ロシアの手も借りて米国による軍事行動をぎりぎりの局面で回避したに過ぎず、根本的問題は何ら解決に向かっていないのが真実だ。
また、アサド政権の“延命”が決まったことで、難民たちの絶望感がいっそう募っている。現在、シリアの周辺国にいる230万人超の難民たちは、多くが本国に戻ることを諦め、高額の手配料を払い、危険を冒してでも自力で欧州諸国に入ることを目指すようになった。10月以降、欧州に非合法的手段で入国したシリア難民の数は7万人に達したとされ、さらに増え続けている。
来月下旬には、スイスでシリア和平会議が予定されているが、現在、戦況で劣勢に立たされている反体制派は、代表すら決められない状態だ。一方、戦況が優勢になったアサド政権側は、強気の姿勢を強めている。国際社会は、当座のアサド政権の継続を容認した以上、何としても話し合いのテーブルに双方を着かせ、和平を図らなくてはならない。
これができなければ、国連の推計では来年末にはシリア難民の数は410万人に達する。この多くが欧州を目指せば、欧州各国の財政を圧迫し、欧州が扉を閉ざせば、シリア周辺国をいっそう不安定化させる要因になる。
シリア内戦は今や「かつてない人道危機である」という認識が国際社会には必要だ。