勢いにあふれた日本のエースが、男子フィギュアの五輪の頂点に駆け上がった。ソチ冬季五輪第8日の14日(日本時間15日未明)、フィギュアスケートの男子フリーが行われ、前日のSP(ショートプログラム)で首位に立っていた19歳の羽生結弦(はにゅうゆづる)(ANA)がフリーでも1位の178.64点をマークして合計280.09点で優勝。今大会日本勢初の金メダルを獲得した。フィギュアでは日本男子初の金で、日本の冬季大会通算10個目。世界選手権3連覇中のパトリック・チャン(23)=カナダ=が2位。初出場の町田樹(たつき)(23)=関大=は5位、10年バンクーバー大会銅の高橋大輔(27)=関大大学院=は6位となり、3大会連続の入賞を決めた。
■駄目かなと…
「多分、駄目かなと思った」
自身の演技後、羽生は一度は金メダルを諦めかけた。しかし、直後に滑ったチャンの得点を確認すると、羽生は「オー・マイ・ガット!」。信じられないとでも言いたげな表情を浮かべ、胸をなで下ろした。フリーでは序盤にミスが目立ったが、最大のライバル、チャンは羽生以上にまさかの細かいミスを連発。逆転を許さず、羽生は遠のいたかにみえた金メダルをたぐり寄せた。
金メダル獲得が決まると、羽生は「本当にびっくりしている。すごくうれしいなと思うのが半分、(演技については)自分の中で悔しいと思うところが結構ある。やっぱり五輪はすごい。緊張した。(フィギュアの)日本男子初の金メダルなので、それはしっかり誇りに思わなきゃいけない」と、苦笑いを浮かべながら語った。
■後半踏ん張る
羽生の窮地を救ったのは、自身にとって「特別なジャンプ」というトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)だった。冒頭の4回転サルコーで転倒し、めったに失敗しない3回転フリップでも着氷が乱れた。序盤で続いたジャンプのミスに場内がどよめいた。しかし、ここからの踏ん張りが勝敗を分けた。
フリーで8つ組み込めるジャンプのうち、羽生は5つをプログラムの後半に跳ぶ攻撃的な内容だ。スタミナが要求される2分15秒以降のジャンプはボーナスで基礎点が1.1倍となる。「脚が重くなって、体力もなくなった」と苦しみながら、日本のエースは歯を食いしばった。
後半で3回転半-3回転、3回転半-2回転の2連続ジャンプを立て続けに決め、悪い流れから息を吹き返した。さらに3回転の中では最も得点の高いルッツも2度決めるなど粘り、美しいイナバウアーで観客を引き込んだ。
死力を尽くしたのだろう。滑り終えると、しばらく立ち上がれなかった。
■「連覇目指して」
羽生は4年後の平昌五輪でも23歳。ソチでフィギュア監督を務める小林芳子強化部長は「ぜひ、連覇を目指してほしい」と期待を口にした。フィギュア男子の五輪連覇は、1952年にディック・バトン(米国)が史上3人目で達成したのを最後に出ていないが、羽生は史上2番目の若さでの金メダル獲得だけに、偉業達成の可能性は十分にある。
この日、メダル獲得を逸した高橋大輔は「これからの日本は彼(羽生)が背負っていくと思う。日本初の金メダルは、僕も一人の日本人スケーターとして誇りに思う」とたたえた。名実ともにエースの称号を譲渡された羽生は、「(出身地の)仙台が震災から復興していくように、自分も前を向いて進んでいかなければいけない」という気持ちを胸に滑り、日本の「フィギュア新時代」を築いていく。