遺伝性の難病「嚢(のう)胞(ほう)性(せい)線(せん)維(い)症(しょう)」に苦しむ南米チリの14歳の少女が大統領に安楽死を認めてほしいと訴える動画をユーチューブに投稿、安楽死を禁じているチリ全土でこの問題をめぐる議論が沸き起こっている。こうした事態を受け、小児科医でもあるミチェル・バチェレ大統領(63)は2月28日、少女の入院先の病院を訪問し、直接、少女に命の大切さ、尊厳などについて諭した。
■病床から「疲れた」涙
安楽死を求めたのは、チリの首都サンティアゴにあるカトリック大学病院に入院しているバレンティナ・マウレイラさん。AP通信などによると、生まれながらに嚢胞性線維症を発症し、これまでに入退院を繰り返しながら、肺などの手術を5回も受けている。兄も同じ病気にかかり、6歳で亡くなっている。
バレンティナさんは2月22日、両親も知らないうちに病室のベッドでスマートフォンを使って自らの動画を撮影。ユーチューブに投稿した。約30秒の動画の中でバレンティナさんは涙ながらに、「すぐにも大統領と会って話がしたい。なぜなら、私はこの病気を抱えて生きることに疲れてしまったからです。大統領の許可さえあれば、(医師は安楽死へと導く)注射を私に打つことができ、私は望んでいる永遠の眠りにつくことができるのです」などと訴えた。
■法も尊重しなくては
動画は大きな反響を呼び、26日になってアルバロ・エリサルデ大統領報道官が記者会見で、「チリでは安楽死は認められておらず、政府はバレンティナさんの願いをかなえることはできない。法も命も尊重しなくてはならない。ただ、本人と家族のコンサルティング的な処置の費用を負担する用意はある」と述べた。
その2日後の28日朝、バチェレ大統領はカルメン・カスティージョ保健相を伴って事前の予告なしでバレンティナさんを見舞った。大統領府は、バチェレ大統領とバレンティナさんの詳しい会話の内容は明らかにしていないが、面会は病室で約1時間に及び、大統領は「まず一人の女性として、医師として」バレンティナさんに命の尊さを説いたという。バレンティナさんは突然の訪問を驚いた様子だったが、明るく話しをはずませた。
■父親は感謝「ともに戦う」
病院の主治医によると、バレンティナさんの病状は現在は安定期にあり、今すぐ危険な状態に陥ることが懸念されているわけではないという。ただ、最近、同じ病気で入院していた同世代の男性友人が亡くなり、強い精神的ショックを受けていた。
バレンティナさんの父のフレディさんは地元メディアに「大統領の心づくしに感謝する。ただ、娘はもう14歳で、病気のことは誰よりもよく分かっている。娘が永眠したいと望むなら、私はその意思を尊重したい。無論、最後まで病と戦うというのなら、片時も娘から離れずに共に戦う」と語った。
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嚢胞性線維症 染色体異常によって発症する遺伝性疾患で、粘っこい分泌液が肺、膵臓(すいぞう)、肝臓、汗腺などの管に詰まり、呼吸困難や消化機能の低下を引き起こす。致命的な難病とされ、かつては6~7歳が平均寿命といわれた。最近は医学の発達により、30歳代まで生きる症例も増えている。日本人の発症率は約190万人に1人と低いが、欧米白人では2500人に1人と高い。