日曜日の7日午前、ロンドンの中心部の橋の上で名物の赤い2階建てバスが爆発・炎上した。テロや事故ではなく、香港の人気アクションスター、ジャッキー・チェンさん(61)=写真=が主演する映画の撮影だったが、近くにいた市民や観光客が一時パニックとなる事態に。ロンドンでは2005年に地下鉄やバスが爆破され、50人以上が亡くなるテロが起きており、「子供がおびえた」「あまりにも無神経」との批判も噴出している。派手な爆破シーンはアクション映画に欠かせないものの、世界各地で頻発するテロがエンターテインメントの映画の撮影にも暗い影を落としている。
撮影が行われたのは、国会議事堂にほど近い場所にあるランベス橋。欧米メディアによると、ゆっくり走っていたバスが突如、轟音を上げて爆発し、2階部分が吹き飛んでなくなり、炎上した。
■「子供が震えた」
爆発を目撃した英小説家、ソフィー・キンセラさん(46)はツイッターに、「非常にリアルで本当に驚いた。(近くにいた子供たちも)びっくりして、一緒に震えた」と書き込んだ。インターネット上には、「朝、爆発音で起きて寝ぼけ眼で目撃した」といった投稿とともに、白煙を上げるバスの写真や動画があふれた。
この映画は、米中共同制作の「ザ・フォリナー(外国人)」。ロンドンのチャイナタウンにあるレストランの経営者役のチェンさんが、テロで亡くなった娘の復讐のため、1人でテロ組織に戦いを挑む内容。スパイ映画「007」シリーズで5代目ジェームズ・ボンドを演じたピアーズ・プロスナンさん(62)もテロ組織の元メンバーとして出演するなど話題作で、今年後半の公開予定だ。
撮影にあたっては関係当局の許可を得て橋を封鎖。事前に周辺に看板を出して通行止めの日時を知らせたほか、近隣住民には文書で通知するなど、念入りに準備をしたという。
それでも知らなかった人たちがパニックとなり、国会議員のナイジェル・ハドルストン氏はツイッターで「爆発だと思っておびえた人はいますか? これは映画撮影です」と、冷静に対応するよう呼び掛けた。
2005年に起きた同時多発テロ事件では同じ2階建てバスも爆破されており、その悪夢を呼び起こさせるようなシーンの撮影に市民から批判が噴出した。
この事件で24歳の娘を亡くしたジョン・テイラーさんは英紙デーリー・ミラー(電子版)で、「被害者や生存者の家族は今回の爆発で動揺したはずだ。そうしたことに配慮されておらず、無神経な行為だ」と怒りをあらわにした。
■高まるリアルさ追求
一方、アクション映画にはこうした迫力あるシーンが欠かせず、特にここ数年は、コンピューターグラフィックス(CG)のような特殊撮影に頼るのではなく、リアルさを追求する傾向が強まっている。昨年大ヒットした「007 スペクター」では8秒近く続く大爆発シーンが映画史上最大規模としてギネス記録に認定されて大きな話題に。昨年公開の「ミッション・インポッシブル/ローグ・ネイション」では、米俳優のトム・クルーズさん(53)がCGどころかスタントマンも使わない生身のアクションでファンを魅了した。チェンさんもアクションへのこだわりは強い。
ただ、パリや米カリフォルニア州などで悲惨なテロ事件が相次ぐなか、映画の撮影にも拒否反応を示す人々が増えている。今回の騒動は、テロの暗い影により、アクション映画が受難の時代を迎えていることを浮き彫りにしたともいえそうだ。