【試乗インプレ】乗用車からの乗り換え検討中ユーザー必見! トヨタ・86の「使える度」(後編)
マイナーチェンジが施されたトヨタ・86。その軽快かつ、素直な走りっぷりが印象的だった前編に続いて、後編では内外装、使い勝手を見ていく。(文と写真:Web編集室 小島純一)
気分盛り上げるディテール
キャビンを後ろ寄りに配置したクーペスタイル。全長は4メートルちょいとコンパクトカー並みに短めで、幅は1.8メートル弱。車高は約1.3メートルと低く、ワイド&ローで「走りまっせ!」と訴えかける形をしている。オーバーハングを詰めてボディーの四隅に寄せられたタイヤが、這うようなスタイルを強調する。
外観デザインの白眉は、何と言っても前輪ホイールアーチの盛り上がりだろう。外から見ていても目立つし、運転席からも見えるのがうれしい。マツダ・ロードスターのホイールアーチも、運転席から見えるのだが「ああ、スポーツカーに乗っているのだな」と強く実感し気分が盛り上がる。と同時に、車両感覚をつかむのにも役立っている。
もう一つ外観上の注目ポイントを挙げるとすると、ボリューム感あるリアフェンダーだろうか。ブリッと張り出して見えるが実際はそれほど張り出していない。造形の妙で数値以上の量感を感じさせている。後ろから見るとなかなか「いいケツ」である(下品でスミマセン)。
地味だけれど、サッシレスのドアもポイントが高い。サイドウインドーを下げて開けたドアに窓枠がない見た目はいかにもスポーツカー然としていて、駐車して乗り降りするときに気分がいい。
スポーツカーに求められるデザインのツボをうまく押さえており、ディテールは非常にいい。
しかしどこか物足りないのはなぜ?
しかしながら、一歩引いてボディー全体を眺めたときに、どこか物足りなさを感じてしまう。ロードスターほどには、デザインに一本筋の通った感じを受けない。
後輪駆動でロングノーズ、ボリューム感ある流線型のワイド&ローと、カッコよくなるはずの前提条件は揃っているのだが、「これ欲しい!」と所有欲を掻き立てる感動に乏しい、というのが正直な感想だ。
意外とゆったりキャビン
ドアを開けようとしてドアハンドルと引くと、瞬時にサイドウインドーが少し下がる。これはロードスターにも採用されている機能で、キャビン内の空気を逃がして負圧をなくし、軽い力でドアを開けられるようにする工夫だ。
173センチの筆者が乗り込んでドライビングポジションを決めると、意外にも頭上には拳2つ弱程度の余裕がある。フロントウインドーも傾斜がきついわりにガラス面積が広いおかげで視覚的に窮屈には感じない。幅方向は十分に余裕があり、センターコンソールが高めにもかかわらず、ちょっとした広々感すらある。逆に言えばスポーツカーらしい包まれ感は、さほど強くない。
硬いのに疲れないシート 安心感にも貢献
シートの出来は素晴らしい。肩までサポートするフルバケット形状で、座り心地は硬めなのだが、長時間乗車でも疲れが少なく、もちろんスポーティーに走ったときのサポート加減も抜群だ。低重心でロールが少ないこともあって、ハイスピードコーナーでもシートの中で体がずれるようなことがない。運転操作への悪影響がないので、ハイペースで走っているときの安心感にも大きく貢献している。
お得感ビシビシ 豪華内装
内装の質感は予想以上に高い。試乗車はキャメルの本革と、黒系のアルカンターラがシート、インパネ、ドアパネルと随所に使われており、色使いがスポーティーさを、素材が上質感を醸し出している。300万円台のスポーツカーとしてはかなり頑張った内装と言っていい。
ハンドル、シフトレバー周りももちろん本革が使われていて、こちらも目の詰まった高品質の革が使われており、高級かつスポーティーな触感である。
インパネデザイン全体はいわゆる絶壁型で、ダッシュボードからセンターコンソールに向かって、垂直に近い角度でストンと落ちる。プロペラシャフトのトンネルでどうせセンターコンソールが高くなるのだから、真ん中をスロープ状にしてしまったほうが今風で、もっと高級感が出たと思うし、何より左手がリーチしやすい。少なくとも、ナビ、エアコン操作部はドライバーに向けて斜めにして欲しいと感じた。
残念なメーターデザイン
メーターは一見3眼の実質2眼式。画像を見ていただくとわかるとおり、3つある丸い縁取りの左と中央にアナログメーター。中央と右側の縁にまたがって、四角いカラー液晶が設置されており、モード切り替えで水温計や、Gセンサーを表示するようになっているのだが…そのデザイン処理がどうにもしっくりこない。
せっかく左右対称に丸く縁取っているのに、どうして上に余白をもたせたかと思ったら下にはみ出すような配置にするのか。全くもって意味不明である。運転中常に目にする部分だけにここは整合性のある、すわりのいい意匠にしてほしいところだ。
と書いていて思い出したのは5月に取り上げたミニ クラブマンのナビ画面。円形の外枠に合わせて液晶画面両端が円弧を描いてカットされていた。製造コストもかかるだろうし、あそこまでこだわれとは言わないが、あまりの違いにもうちょっとなんとかならなかったのかと残念な気持ちになる。
後席は使える?
セダンやステーションワゴンからの乗り換えを検討しているユーザーが気になるのは後席の実用性だろう。結論から言うと、右側はほぼ使えないと思っていたほうがいい。
運転席でドライビングポジションを合わせると、後席膝下は拳一つ半程度の余裕しかなく、大人が座るのは実質無理。左側は前席を前にずらせば、膝下にはそこそこの余裕が生まれるが、後頭部がリアウインドーすれすれであり、身長175センチ以上の大柄な人が乗り続けるのはやはり難しい。
子供か、小柄な人専用と割り切る必要があるし、そうだとしても長時間は酷だ。
後席には左右ともチャイルドシートを取り付けるISOFIXの金具が内蔵されているから、乳幼児を乗せるにはちょうどいいのでは…と思いたいところだが、実際問題として、親が横に並んで座らざるを得ない場面は多いだろうから、これも非常用の使い方となるかもしれない。
後席を諦めれば結構使える荷室
クルーズコントロールは速度設定のみの昔ながらのタイプ。前車追従機能などは備えていない。よく流れている自動車専用道路でしか使えないが、クルマの性格から考えてついてなくてもいいくらいでこれは減点ポイントにはならない。
ラゲッジの蓋はリアガラスごと開くハッチバックでなく、普通のトランクリッドなので、開口部は広くない。スポーツカーとしての剛性を確保するためのデザインだろうから、このくらいの使い勝手の悪さは我慢しよう。
ただ、荷室は広くも高くもない代わりに、変な出っ張りがなくスクエアな形状なので収納はしやすいと思う。後席を倒せば奥行きもそこそこ確保できるので、2人乗りなら長さのあるものも積めそうだ。
乗用車からの乗り換えは現実的か
乗り心地は乗用車並み、静粛性も高く、燃費もまずまず。もちろんスポーツ走行は大得意で、乗り手を選ばず、すこぶる楽しい。走りの点から見れば悪路への対応以外はほぼオールマイティーである。乗用車からの乗り換えを検討するユーザーを囲い込もうというトヨタの戦略がうかがえる。
となると気になるのは実用性だが、かなり厳しめに書いてきたけれど、国産スポーツカーの中では比較的実用性があるほうだ。後席スペースを「非常用座席」ではなく、2シーターの「荷室」として捉えられるなら、快適と言えるレベル前席の居住性(特に助手席)と合わせて、ロードスターや、軽オープンの2台に対する大きなアドバンテージになる。一昔前の価値観で言えば、デートカーとしてのポテンシャルは最も高いはずだ。
気軽に乗れる手頃な値段のスポーツカーが欲しい、乗るのは2人まで…というユーザーには文句なしでオススメできる。(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)
■基本スペック
トヨタ・86(後期型) 6MT
全長/全幅/全高(m) 4.24/1.775/1.32(アンテナ含む)
ホイールベース 2.57m
車両重量 1,240kg
乗車定員 4名
エンジン 水平対向4気筒 直噴DOHC
総排気量 1.998L
駆動方式 後輪駆動
燃料タンク容量 50L
最高出力 152kW(207馬力)/7,000rpm
最大トルク 212N・m(21.6kgf・m)/6,400rpm~6,600rpm
JC08モード燃費 11.8km/L
車両本体価格 325.08万円
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