【試乗インプレ】今さらだけど、日本一売れてるからホンダ・N-BOXに乗ってみた(前編)

 
ヒマラヤ杉の前を走るホンダ「N-BOX」

 今年2月の新車販売ランキングで3カ月連続1位を獲得するなど、デビューから5年以上が経過しても好調が続くホンダの軽トールワゴン「N-BOX」。その驚異的ともいえる人気の理由を探るべく、今さらながら試乗車を借り出して都内を走ってみた。前編では主にドライブフィールをチェックする。(文・大竹信生/SankeiBiz 写真・瀧誠四郎)

 “国民的軽自動車”に成長

 軽自動車の2強、ダイハツとスズキを追うべく、ホンダのラインアップ強化を目的に2011年12月に投入されたN-BOX。瞬く間に人気軽自動車としての地位を確立し、ロングセラーに成長するなど、いまや“国民的軽自動車”とも呼べる定番車種の一つとなった。

 では実際にどれほど売れているのかというと、2012-15年度の4年間で3回も軽販売台数1位を獲得し(14年度はダイハツ・タント)、16年度も首位が濃厚という状況。というのも、16年4月から直近の17年2月まで11カ月連続で首位を維持しているからだ。7月以降は毎月のように前年比も超えている。ただし、同じく人気のタントとムーヴのダイハツ勢を交えたトップ3の争いは熾烈を極めている。スズキも6代目となる新型ワゴンRを今年2月に発売し、スペーシアも今年中に全面改良する可能性が高い。当のN-BOXも今年中のフルモデルチェンジが囁かれている。トールワゴンのカテゴリは各社のモデルが改良を重ねて成熟し、まさに群雄割拠の時代なのだ。

 N-BOXはトールワゴンの中でも、昨年2月の試乗インプレに登場したダイハツ・ウェイクに次いで2番目の上背を誇る(※早見表を参照)。全高1780ミリ(4WDは1800ミリ)という大きさから、ウェイクやタント、スペーシアや日産・デイズルークスと並び、トール系の中でも長身の「スーパーハイトワゴン」として分類されたりもする。

 SUVより背が高い

 N-BOXの魅力は何といっても背の高さを生かした室内空間の広さと、外観や持ち味が異なる個性的な派生車種を取り揃えていることだ。基本的に「N-BOX」「N-BOX+(プラス)」「N-BOX SLASH(スラッシュ)」の3タイプを軸に、純正パーツで飾り付けたカスタムモデルなども展開している。先述のN-BOXの販売台数は、これら派生車種を合算した数字だ。今回試乗したのはベースモデルの「N-BOX」で、グレードは「装備満載のおすすめモデル」(ホンダ)である「Lパッケージ」。駆動方式は前輪駆動(FF)で、車両価格は税込み137万円だ。ちなみに本稿はあくまでN-BOXの試乗記であり、ライバル車を一気に借りて乗り比べるといった趣旨ではないので、あらかじめご理解いただきたい。

 このクルマ、改めて見るとビックリするくらいデカイ。現在の軽自動車の規格は排気量660cc以下、寸法は全長3400×全幅1480×全高2000ミリ以下と定められている。各メーカーとも規格の範囲内で居住スペースの最大化を図ろうとするので、どの車種も基本的には全長3395、全幅1475ミリで共通している。外形寸法で差が出るのはまだ若干の余裕がある全高なのだが、最近の人気SUVよりも背の高いN-BOXは登録車と並んでも存在感がある。

 運転席に乗り込むと、まずは見晴らしのよさに驚く。フロントウインドーをはじめ四方を囲む窓ガラスの面積が大きく、思わず笑みがこぼれるほど気持ちのいい開放的な空間が広がっている。着座時の視点は高く、横幅に窮屈さは感じない。メーターフードやダッシュボード、前方に突き出したボンネットは低く短く抑えられている。これなら視界を遮ることもないので、車両感覚がつかみやすい。老若男女、背丈など体格の違いを問わず、誰でも快適に運転できそうな印象だ。

 コーナリングは大丈夫なのか

 エンジンを始動して走り出す。試乗車は水冷直列3気筒のノンターボで、最高出力58PS/7300rpm、最大トルク6.6kgm/4700rpmを発揮する。今回も瀧カメラマンとの2人乗車だが、走り出しはとてもスムーズ。まずは東京・青山のホンダ本社ビルから本郷三丁目駅近くの東京大学方面を目指して走り始めたが、時速50-60キロ程度なら何の不満もなくトラフィックの流れについていくことができる。

 トールワゴンで気になるのがコーナリング時の安定性だが、走行場面に適した速度で丁寧に運転すれば全く不安はない。ステアリングホイールは非常に軽い印象で、ハンドルをスッと切ると、これがなかなか気持ちよくターンする。上背があるとカーブを曲がるときに車体が不安定になりやすいが、多少スピードを上げてもロール(重心が左右にかかることで発生する横方向への傾き)は特に感じなかった。もしかすると、燃料タンクを車体の中心に近い前席直下に配置したことで、安定性向上に貢献しているのかもしれない。ただ、この日は関東地方に春一番が吹くなどトールワゴンユーザーにとって苦難の一日に。運転中に何度も横から押されるようにグイグイと煽られたのには正直参った。

 トランスミッションは無段変速オートマチック(CVT)を採用しているので、走行中はとても滑らか。変速ショックがないので、感覚的にはゴーカートに近い。14インチタイヤを履く足回りは程よい硬さがあり、上背とのバランスを重視してか想像以上に引き締まった乗り味だ。少々荒れた路面の上でもしっかりと足を使ってショックをいなしながら走るので、乗り心地はとってもいい。

 狭い道もスイスイ

 試乗中に「運転しやすいなあ」と実感したのが、やはり軽としてのコンパクトさが最大限に発揮されるときだ。車線変更や路地に入ったときのように、狭いスペースを縫って走るときは「正直、このサイズでよかった」と安堵感を覚える場面が多々あった。道を間違えても小回りが利くので、簡単に方向転換もできる。途中訪れた東京下町の谷根千エリアでは、軽しか通れない細い道や、軽しか止められない自宅駐車場がたくさんある。マイカーに高い走行性能を求めないユーザーであれば、軽に乗っているからこそ享受できる生活のしやすいカーライフを実感できるだろう。強風の“体当たり”を幾度となく浴びたとはいえ、背の高さをハンディに感じる場面は少なくとも試乗中にはなかった(ただしトール系の場合、機械式駐車場はいかなるときもアウトです!)。

 見通しの悪い交差点では、ノーズが短いおかげで合流地点の直前まで近づくことができるため、右左折時に道路の両側が見やすいというメリットがある。また、Aピラー(フロントガラスを支える左右両端の柱)の横にタテ長の三角窓があるので、死角が少ないことも大きな安心感となる。リバース時は、車両後方の状況をモニターに映し出すリヤビューカメラがあるので、運転が苦手という人でも不安が軽減されそうだ。

 いいことばかりじゃないけれど…

 もちろん、走っていればいくつか難点も見えてくる。あまり軽に大きな動力性能を求めてはいけないとわかりつつも、やはり不満を感じるシーンはあった。例えば大通りに接するT字路などで、停止状態から一気に加速して流れに合流するときは、スピードに乗るまでもたつきがある。本線合流後、真後ろから迫って来たタクシーに「邪魔だ、どけ!」と言わんばかりにクラクションを鳴らしながら猛スピードで抜き去られることも。これが上り坂ともなると、アクセルペダルをベタ踏みしても、流れに乗るまで後続車を抑え込んでしまうことがあった。

 N-BOXのエンジンは競合車と比較してトップクラスのパワーを誇ると同時に、車重が重いクルマでもある。いったん流れに乗ってしまえば気にならないが、急な加速を必要とするときは重量が足かせになりやすい。ちなみに公称燃費がライバルより不利なのも、車重の重さが少なからず影響しているはずだ。今回は高速道路を走る時間がなかったが、長距離移動が多く高速走行時に余裕が欲しいドライバーは、絶対にターボ車をお勧めする。

 このクルマはファミリーユースを想定して作られている。見晴らしがよく取り回しに優れ、乗り心地がよくて誰にでも運転しやすいという点から、需要の大きい理由がたっぷりと伝わってきた。運転席から360度ぐるりとクリアな視界が確保されていて、閉塞感もない。運転手のみならず同乗者、特に子供は一緒に乗っていて楽しい気分に浸れる大空間だ。

 ここまでロードインプレッションをお伝えしたが、後編では内外装を中心にじっくりと見ていく。特にインテリアの使い勝手については、このクルマが売れる理由がたっぷりと詰まっていた。では、次週もお楽しみに。

■撮影ワンポイントアドバイス

「白いボディー」

 白色やシルバーなどの反射率の高い被写体を撮影するときは、露出(絞り)に注意! 白い部分で画面一杯にして露出を計ってマニュアルで撮影すれば失敗は少ないが、Pモード(プログラム 全自動)で撮影するなら路面のアスファルトなどグレートーンを基準にして露出を計り、表示数値より1絞り(1段階)以上絞って撮影する。直射日光が当たるなら2絞り以上“暗くする”側に補正する。125\1秒で絞りF8が適正表示なら1段補正でF11か、2段補正でF16に。シャッター速度で補正するなら125\1秒を250\1秒か500\1秒に。大事なことは露出オーバーで撮影したら情報が無い「白トビ」状態で修正がきかなくなること。モニターで確認して明るくきれいに見えたら要注意。拡大して白トビしてないか確認すると失敗しなくてすみます。(瀧)

■主なスペック(試乗車)

全長×全幅×全高:3395×1475×1780ミリ

ホイールベース:2520ミリ

車両重量:950キロ

エンジン:水冷直列3気筒

総排気量:0.658リットル

最高出力:43kW(58ps)/7300rpm

最大トルク:65Nm(6.6kgm)/4700rpm

トランスミッション:CVT

駆動方式:FF

タイヤサイズ:155/65R14

定員:4名

燃料タンク容量:35リットル

燃料消費率(JC08モード):25.6キロ/リットル

車両本体価格:137万円