【試乗インプレ】5年経っても売れ続けるにはちゃんとワケがある ホンダ・N-BOX(後編)

 
フロントドアの開口部は90度に開く。後席の広さや室内高の高さはこの写真を見ただけでもよくわかる

 3月現在、プリウスノートといった強敵を退け、3カ月連続で新車販売ランキングの首位を快走するホンダの軽トールワゴン「N-BOX」。2011年12月のデビューから5年以上が経過した今でも安定した販売ペースを誇る“国民的軽自動車”だが、競合車種が多い中でこれだけ人気が長続きする理由は何だろうか。前回は走行性能を試したが、後編では内外装を中心にこのクルマの魅力を分析する。(文・大竹信生/SankeiBiz 写真・瀧誠四郎)

 フィットを上回る販売ペース

 前編でも触れたように、N-BOXは販売競争が激化する軽トールワゴン市場において圧倒的な強さを見せている。15年3月にはピークとなる約3万台を販売した。今年度は16年4月から直近の2月まで11カ月連続で軽のシェア1位を堅持しており、その間の平均販売台数は1万6000台以上。モデル末期の現在も驚異的なペースを維持している。昨年末には、発売開始から60カ月目で累計100万台を突破。これは人気小型車フィットの78カ月目を大きく上回るホンダ史上最速のミリオン達成だった。このように、N-BOXの売れっぷりを書き始めるときりがないのだ。

 前編では走行性能に主眼を置いたが、今週は内外装に焦点を当ててユーティリティを確かめていく。随所に筆者の強い主観が入るかもしれないが、そこはインプレッションとして感じたことを誰にも遠慮せずストレートに伝えたいので、どうかご了承いただきたい。

 それぞれの個性が光る派生モデル

 まずは外観だが、N-BOXは今回試乗した標準モデルのほかに、「N-BOX+(プラス)」「N-BOX SLASH(スラッシュ)」を合わせた3モデルを軸とした派生車種を展開しており、ルックスも大きく異なる。標準モデルのN-BOXは、シンプルで親しみやすいデザインが好印象だ。12年7月に第2弾として投入したN-BOXプラスとともに、純正パーツで加飾したカスタムモデルも用意している。こちらは一転、ド派手なクロームメッキのグリルや青いLEDのポジションランプで装飾するなど、オリジナルとは似つかないギラギラ感が目を引く。これらすべてのモデルに共通しているのは、全高1780ミリ(4WDは1800ミリ)という背の高さ。いざ目の前に立つと「ホントに軽自動車なの?」と疑ってしまうほど存在感がある。14年12月に発売されたシリーズ第3弾のN-BOXスラッシュは、ルーフを切り落として全高を110ミリ低くした「チョップトップ」と呼ばれるアメリカンテイストの強いモデルだ。

 N-BOXが安定して高い人気を誇る理由の一つが、この幅広いラインアップだろう。見た目や雰囲気の異なる派生車種を豊富に揃えることで、ユーザーの多様なニーズにしっかりと応えることに成功しているようだ。子育て層をターゲットにした標準モデルが売れ筋だが、押し出しの強いカスタムモデルやお洒落なデザインが際立つN-BOXスラッシュは若年層からの支持が多いという。女性目線を意識した丸みを帯びたデザインが多いトール系の中で、男性でも抵抗感の少ないユニセックスな見た目も台数が出る要因だと考える。

 やっぱり「いいね!」なスライドドア

 インテリアに目を移そう。ここからは標準モデルを中心に話を進める。前席は開口部が90度近く開くヒンジ式のドアを採用しているが、後席へのアクセスは電動スライドドア(リア右側の電動ドアはメーカーオプション)を開けて乗り込む。ドアを開けた時の開口幅は64センチとかなり広い。我が家で使用しているベビーカーの横幅が50センチ弱なので、これならボディを傷つける心配もなさそう。最近のトール系はスライドドアが主流だが、この便利さを一度味わうとなかなかヒンジ式には戻れないだろう。メリットは「幅が狭い所でもドアの開閉ができる」「乗り降りが楽チンで荷物も積み込みやすい」「チャイルドシートに子供を乗せやすい」などが挙げられる。よく考えると、オフィスやレストランに入るときは自動スライドドアの方が楽だし、もし現代のバスや電車のドアが昔のようにヒンジ式だったら様々な事故が起きそう、などと考えてしまう。引き戸は多くの乗り物にとって、とても合理的なドアなのだ。一緒に試乗インプレを担当する小島氏の「ロードスターRF」の電動ハードトップの話にもあったが、電動スライドドアの唯一のデメリットといえば、手動と比べて完全に開くまで「待たされる感」があることだろう。ただし、使用時の安全性を考えると、ゆっくり開閉すべきなのだと納得がいく。

 「感激もの」の広い室内空間

 ドアの開口部は幅広だけでなくフロア高が低いので、子供やお年寄りでも乗り降りがしやすそう。室内高は140センチもあるので、大人でも少しかがむだけでスイスイと動く余裕がある。従来の多くのクルマは車両後方に燃料タンクを積んでいたが、N-BOXは前席直下に配置することで、後方部の室内空間を広く取ることに成功している。後席に座ると頭上や足元の広大なスペースに誰もが驚くことだろう。筆者の場合は座面と大腿部の間に若干隙間ができたが、足を投げ出しても足元が広々としていることを考えると以って瞑すべしだ。面積の大きい窓のおかげで車内は明るく、窓の外に映る景色が開放感をもたらす。後席の座面は、背もたれに重ね合わせるように畳むことができる「跳ね上げ式」を採用しているため、車両中央部に広大で高さもあるスペースを作ることが可能。後席を最後端までスライドさせれば、さらに大きな空間を生むことができる。長尺モノを縦に置くのはもちろん、ベビーカーを畳まずに載せたり、ペット用ケージを置くこともできちゃうわけだ。

 荷室は後席を最後端までスライドさせるとやや狭いが、そこはシートをどこまでスライドさせるかとの兼ね合いとなる。後席を前に出すことができれば、大きめのスーツケースを置くことだって可能だ。レバーを引いて後席の背もたれを倒せばフラットなスペースが出現。身長172センチの筆者が横になると写真のように足が外にはみ出してしまい、ひざを曲げないと眠れないが、疲れた子供を寝かせるには十分だ。標準モデルは前席を畳むことができなかったが、室内ユーティリティを高めたN-BOXプラスなら前後席を完全に寝かせたフルフラットモードはもちろん、荷室に地上接地型のスロープを接続することで、自転車や車イスを手押しで積み込むこともできる。

 質感がいいとやっぱり嬉しい

 後回しとなったが、運転席はどうか。着座すると視点が高くフロントウインドーが大きいので、見晴らしは抜群にいい。一つ難点を挙げるなら、フロントウインドーがほぼ直角に立っているせいで、ルーフ先端がドライバーの頭よりかなり前に突き出しており、列の前方で信号待ちをしていると、頭上付近にある信号機がルーフにさえぎられて見えづらいことだ。これはどのトールワゴンにも言えることでもある。また、窓が直立したトールワゴンは空気抵抗が大きいため、一般的な軽と比較して燃費性能が不利になりがちだ。

 センターコンソールの操作系スイッチやシフトレバーの使用感など、車内の質感は想像以上に高かった。ボタンやレバーを操作したときの安っぽさがほとんどないのだ。これもN-BOXの人気の秘密ではないだろうか。もう「軽だから…」という言い訳は通用しないくらいしっかりと作りこまれている。シートは程よい軟らかさがあって座り心地がいい。センターメーターが多いトール系では(おそらく)唯一の3眼メーターは、ドライバーのテンションをちょっとだけ上げてくれる。ドリンクやスマホといった小物を置く収納スペースもしっかりと確保してある。前席の背面にあるテーブルは、後席に座って子供の世話をするママさんにとって相当使い勝手がいいはずだ。

 これらすべての車内活動が快適に行えるのも、軽最大級の室内空間を誇るN-BOXだからだろう。このクルマの広さを最大限に実感できるのは、後席から車内を見渡したときだ。昔の軽の窮屈さからは想像できないくらいに、広くて明るくてワクワクする空間が広がっている。特にターゲットとするファミリー層には、車内の広さや使い勝手の良さが明確で非常にアピール力が強い商品だと感じる。1年ちょっと前にある自動車ジャーナリストと話をしたときに、「最近の軽は驚くほどよくできていて、性能がいい」と大絶賛していた。軽は税制面や維持費でも登録車より有利であることを考えると、消費者の様々なニーズを高いレベルで満たしてくれるN-BOXが支持されても驚かないわけだ。

 “噂”の次期型にも期待

 ほかにもN-BOXが売れ続ける理由は考えられる。まず、ホンダは販売網が広い。N-BOXがモデル末期ということもあって大きな値引きもあるはずだ。ここ半年間の販売台数を見てみると、ダイハツはタントとやや全高が低いムーヴに分かれることで“共食い”している感もある。その点、ホンダは派生車種のセールスがすべてN-BOXとして合算されているという有利な側面もある。また、これは完全に個人的な意見だが、N-BOXという名前もセンスがあってカッコいいと思っている。逆にタントは名前の響きがやや幼稚なイメージで、30代の男としては買うことに恥ずかしさを感じてしまう(ムーヴやウェイク、スズキのワゴンRやスペーシアはどれもいい名前だと思います!)。車名から連想するイメージも、特に男性ユーザーには購入動機として大きく働くのではないだろうか。

 ホンダはN-BOXが売れる理由について「室内空間の広さや存在感のあるデザイン、多彩なシートアレンジや軽自動車の枠を超えた総合性能の高さ」と分析していた。やはり、子育て層やダウンサイザーからの人気が高いそうだ。

 N-BOXは今年中のフルモデルチェンジが噂されている。もし注文を付けるとすれば、安全装備を「ホンダセンシング」にアップグレードして欲しいということだ。そして、おそらく導入してくるだろう。せっかく確立した安全技術は、標準装備として積極的に導入すべきだ。“絶対王者”のN-BOXとて、うかうかしていられない。日本国内で独自の進化を遂げてきた軽自動車は成熟期を迎え、ライバルは次々に魅力的なクルマを投入している。各社、今後どういうコンセプトや新たな付加価値を打ち出すのか、興味は尽きない。N-BOXの次の進化には大いに期待したいところだ。(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)

■撮影ワンポイントアドバイス

「白いボディー」

 白色やシルバーなどの反射率の高い被写体を撮影するときは、露出(絞り)に注意! 白い部分で画面一杯にして露出を計ってマニュアルで撮影すれば失敗は少ないが、Pモード(プログラム 全自動)で撮影するなら路面のアスファルトなどグレートーンを基準にして露出を計り、表示数値より1絞り(1段階)以上絞って撮影する。直射日光が当たるなら2絞り以上“暗くする”側に補正する。125\1秒で絞りF8が適正表示なら1段補正でF11か、2段補正でF16に。シャッター速度で補正するなら125\1秒を250\1秒か500\1秒に。大事なことは露出オーバーで撮影したら情報が無い「白トビ」状態で修正がきかなくなること。モニターで確認して明るくきれいに見えたら要注意。拡大して白トビしてないか確認すると失敗しなくてすみます。(瀧)

■N-BOXの主なスペック(試乗車)

全長×全幅×全高:3395×1475×1780ミリ

ホイールベース:2520ミリ

車両重量:950キロ

エンジン:水冷直列3気筒

総排気量:0.658リットル

最高出力:43kW(58ps)/7300rpm

最大トルク:65Nm(6.6kgm)/4700rpm

トランスミッション:CVT

駆動方式:FF

タイヤサイズ:155/65R14

定員:4名

燃料タンク容量:35リットル

燃料消費率(JC08モード):25.6キロ/リットル

車両本体価格:137万円