【試乗インプレ】新型マツダ・CX-5は独プレミアム勢を追撃できるか(前編)
中型SUV、CX-5のデビューは2012年。野生動物の一瞬の動きやその美しさを表現した「魂動」デザイン採用の第1号モデルであり、新生マツダを強く印象付け、その屋台骨を支える主力商品にまで成長した大ヒット車種。あれから5年、車両価格はほぼ据え置きのまま、初代のイメージを継承しつつ各所をブラッシュアップした2代目を大阪と京都で試乗した。今回はその走りに注目していく。(文と写真:Web編集室 小島純一)
市街地での乗り味は「お値段以上」
産経新聞の大阪本社からほど近い関西マツダ・ナンバ店で試乗車をお借りし、一路、京都の祇園を目指す。
試乗車は2.5リッターガソリンエンジンの4WD仕様。
重量感のあるドアを開けて乗り込み、ボフッと重厚な音を響かせドアを閉めると、室内は静寂に包まれる。走り出す前から密閉性と遮音性への期待値がグッと上がる。エンジンを始動すると、ガソリン仕様らしくエンジン音は穏やか。アイドリング状態でも不快な振動はまったく室内に入ってこない。
アクセルを踏み込み、大阪市内中心部を走り出す。自然吸気エンジンらしく、トルクの立ち上がりは緩やかながら、1.5トンの車体を難なく加速させていく。SUV特有の高い視点のせいで、それほどスピードが出ている感覚はないのだが、気がつくとルームミラーに映る後続車とはずいぶん距離が空いている。ゴー&ストップの多い市街地走行でも、発進加速に不満が出ることはないだろう。高めの視点とともに、高い静粛性もまた加速感を減じる効果を発揮している。街乗りの速度域なら期待以上に静かで、高級サルーン並みと言っていい。
6速ATも変速ショックを全く感じない滑らかで上質な作動。それでいて、滑っている感じも極めて少なく、エンジン音の高まりときっちりシンクロして速度が上がっていく。願わくばこのフィーリングのまま7、8速と多段化してくれれば、もう本当に絶賛したいところ。
ボディー剛性は高く、サスペンションの動きも的確。荒れた路面でも不快な突き上げはなく、凹凸をうまくいなしてくれる。がっしりしていながら粗さはなく、一言で言って快適そのもの。欧州車、特にドイツ車に乗り慣れた人であっても、十分納得できる乗り心地だろう。
ここまで、市街地での乗り味から受けた「いいクルマ」感は完全に価格以上、というのが第一印象だ。
ボディーサイズは先代から一回り大きくなっており、特に横幅は1.8メートル超えながら、ボンネットの見切りがよく、車両感覚はすぐにつかめる。左のドアミラーに内蔵したカメラからの映像で、左前方の死角もカバーできるから、大柄なクルマやSUVは初めて、というユーザーでもあまり心配する必要はないだろう。
高速巡航では後輪ノイズが目立つ
阪神高速経由で第二京阪道に入る。80キロ程度で巡航していると、市街地とは印象が少し違ってくる。
後輪のロードノイズが思ったより大きめに聞こえてくるのだ。以前、同じマツダのアクセラ試乗記を書いた大竹記者も同じような指摘をしているが、これはマツダ車特有の弱点なのだろうか。
隣を走るクルマの走行音など車外の騒音や自車のエンジン音、風切り音についてはよく抑えられていて、遮音レベルが非常に高い。ここは市街地走行での印象そのままだ。あるいは、後輪からのノイズも絶対値としてはさほど大きくないのかもしれないが、他の騒音が聞こえにくくなっていることで相対的に目立ってしまっているのかもしれない。大竹氏がアクセラで指摘したほどの不快感は感じなかったものの、ここさえ改善されれば…という非常に惜しいマイナスポイントではある。
またドイツ車的な乗り味から期待した直進安定性もあと一歩。国産車としては十分合格ラインの安定感ではあるのだが、ドイツ車のようにレールの上を走っているかのようなビシッとした感覚にまでは到達していない。
本革シートはセミバケット形状でサイズはゆったりめ。おろしたての車両のため革はまだ固さが残っていて、体のラインへのフィット感は少なめだが、形状が適切で運転疲れは感じない。お馴染みとなったマツダこだわりのペダル配置も、自然な運転姿勢を保たせることで運転疲れの解消に役立っていると思われる。
厳しいことも書いたが、基本的なツーリング性能は総じて高く、遠乗りしたいと思わせる魅力は十二分に備えている。
SUVなのにワインディングが楽しい
京都で一般道に下りて祇園の街中で撮影をした後、名所・三千院の脇を経由して国道477号を大原の山の中へ。曲がりくねった道をしばらく走ると中央線は消え、道幅が狭い崖沿いの山岳道となる。平日の午前中とあって、観光客やサイクリスト、バイカーの姿はなく、時折地元のクルマが通るのみで、ほぼ“貸し切り”状態。急勾配や半径の小さいカーブが延々続くこの道で、登坂(下坂)性能とハンドリングを試してみる。
まず登坂性能だが、ある程度回転が上がったところでトルクが大きくなるので、アクセルを踏み込んでから、十分な押し出し感を得られるまで少し間がある。実はこの試乗の数日前に、個人的にディーゼル仕様車にも短時間試乗したのだが、恐らくディーゼルであれば、低回転域から大きなトルクが出るので、山坂道でももっとキビキビ走れるはずだ。
一方、ハンドリングはちょっと驚かされた。結論から言うと、曲がるのが楽しい。ハンドルを切ったとおり4輪がきれいに軌跡を描いていく。修正舵の頻度はとても低く、意のままに操っている感覚が強かった。
このCX-5にもマツダの最新技術GVC(←詳しくはアクセラ試乗記参照)が搭載されており、恐らくこのハンドリングの気持ちよさに貢献していると思われるが、そうだとしてもその働き方はごく自然なものであり、運転している私にはその機構の存在をまったく感じさせなかった。これは一種のマジックだ…と思う一方で、よくよく考えてみれば、自動車の中には、ユーザーにそうとは感じさせず自然に運転できるよう工夫して作られたパーツや仕組みが他にいくつもあるわけだ。と言うか、そういう長年の工夫の積み重ねで出来上がっている。これはマツダのクルマに限ったことではない…なんて考えると、ちょっと遠い目になってしまう。
話を戻そう。SUVながらロールが抑えられているのも美点で、急カーブでも不安になるような場面はなかった。市街地での直進も曲がりくねった山岳路でもこなせるオールマイティーな足回りと言える。重心や視点の高さを意識することなく乗用車的な感覚で走れるのは、セダンやステーションワゴンからの乗り換えを検討しているユーザーにとって見逃せないポイントとなるだろう。
最後に、下り坂でのエンジンブレーキの効き具合について。477号線の下り坂は勾配がきつくしかも長い。減速をフットブレーキだけに頼るのは危険だ。シフトレバーをDレンジから右に倒し2速まで落とす…が、あれ? 思ったほど制動が効かない。結局フットブレーキを併用して速度を落とすが、ブレーキペダルから足を離すと、またずるずる速度が上がっていく。うーむ。全然効かないというわけではないが、もうちょっと効いて欲しい。市街地で感じたATのロックアップ率の高さが下り坂では希薄になってしまうのはどうしたことだろうか。ここは改善を望みたい。
ドイツ車と比べたくなるレベルの出来
どうも第一印象が非常に良かっただけに、ドイツ車基準で比べてしまって採点が辛くなった(裏返せばドイツ車と比べたくなるレベルということ)ところもあったが、全体として走りの質感はとても高い。後編のレビューを待たずとも、走りの性能だけ見てもコストパフォーマンスは抜群、と言いきってしまおう。
次回、後編ではいつもどおり、内外装、使い勝手にフォーカスしていく。お楽しみに。(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)
■基本スペック
マツダ・CX-5 25S Lパッケージ 4WD 6AT
全長/全幅/全高(m) 4.545/1.84/1.69
ホイールベース 2.7m
車両重量 1,550kg
乗車定員 5名
エンジン SKYACTIV-G 直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量 2.488L
駆動方式 四輪駆動
燃料タンク容量 56L
最高出力 140kW(190馬力)/6,000rpm
最大トルク 251N・m(25.6kgf・m)/3,250rpm
JC08モード燃費 14.8km/L
車両本体価格 321.3万円
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