【試乗インプレ】トランプさんが日本人にアメ車を買えと言うからキャデラックにイッキ乗りしました
日本人がアメリカのクルマを買わないのは不公平だ-。就任直後のトランプ米大統領が、日米の自動車貿易について不満を爆発させたのは記憶に新しい。アメ車に対するイメージはあっても、実際に「ハンドルを握った経験がある」という日本人は相当少ないのではないだろうか。日本で米国車が売れない理由はあれこれと容易に想像できるが、とりあえず実際に運転してみようではないか。今回、米国のゼネラル・モーターズ(GM)が展開する高級車ブランド「キャデラック」の5車種にイッキ乗りするチャンスがあったので、2週にわたって2つのモデルを取り上げる。今週紹介するのはフラッグシップセダンの「CT6」だ。(文・大竹信生/SankeiBiz 撮影協力・GMジャパン)
ベンツSクラスやBMW7シリーズの対抗馬
今回、GMジャパンから「キャデラックのセダンに乗って群馬県の桜の名所を巡りませんか」というお話をいただいた。こちらとしては二つ返事。「お誘いいただき恐悦至極にございます!」とやる気満々で参加した。というのも、偶然にも「そろそろ『試乗インプレ』でアメ車に乗りたいな」などとキャデラックの公式サイトをチェックしている矢先のオファーだったからだ(これ、マジ話です)。以前、妻から「お金があったらどのクルマに乗りたいの?」と聞かれたときに、「たぶん知らないと思うけれど、キャデラックのエスカレード」と答えたことがある。ちなみにエスカレードは「成功のシンボル」として世界の富裕層に愛される超高級SUV。2年前に米デトロイトに出張したときも、空港まで迎えに来てくれたのはエスカレードだった。キャデラックは個人的に気になるブランドだったのだ。
日本におけるキャデラックのセダンは「ATS」と上級の「CTS」、そして最上級の「CT6」というラインアップ。さらに、スポーツ性能を極限まで高めた「Vシリーズ」をATSとCTSの2モデルで展開している。今回試乗した5車種は「ATS」「ATS-V」「CTS」「CTS-V」「CT6」だ。
ATSがメルセデス・ベンツのCクラスやBMWの3シリーズ、CTSがEクラスや5シリーズと同じクラスなら、今週の主役のCT6はSクラスや7シリーズといった高級セダンの代名詞に対抗するモデルだ。外形寸法もこれらライバルとほぼ同サイズの全長5190ミリ×全幅1885ミリ×全高1495ミリで、ホイールベースは3110ミリ。車両価格は998万円(税込)だ。
大きなボディを軽々と…
今回の試乗は、GMジャパンの本社がある東京・品川を出発後、5車種を乗り換えながら富岡製糸場などの観光地を回り、再び都内を目指すといった一日がかりの行程だ。筆者がCT6を運転したのは、関越自動車道の高坂SA(埼玉県東松山市)から群馬県の甘楽町(かんらまち)にある「甘楽ふるさと館」までの約75キロの道のり。遠足前夜の子供のように胸を躍らせながら運転席に収まった。
すでにエンジンがかかった状態で乗り込んだのだが、ここは敢えていったんオフにして再起動させる。スタートボタンを押すとカラー液晶のインパネが鮮やかに浮かび上がり、大きな車体をほとんど振るわせることなく静かに起動した。静寂な車内にはラグジュアリーな雰囲気が漂い、ただ座っているだけでも大らかな気持ちになってくる。日本で販売されるキャデラックは米国同様、すべて左ハンドル。左手でステアリングを握り、右手でハンマー型のシフトレバーをDレンジに入れて高坂SAを出発した。
いきなり高速道での走行となったが、さっそくCT6の高いパフォーマンスを目の当たりにすることとなった。まず驚いたのが、その大きな見た目からは想像できないほど軽々と車体を動かすエンジンパワーだ。レスポンスが鋭く、ぐいぐいと加速していく。「アメ車はエンジンがバカでかいんでしょ…」と思われるかもしれないが、CT6は3.6リッターV6自然吸気エンジンを搭載している(えっ、十分でかいって?)。最高出力は250kW(340PS)/6900rpm、最大トルクは386Nm(39.4kgm)/5300rpmというハイスペック。ボディ構造は11種類の素材を組み合わせることで、このサイズの全輪駆動車(AWD)にしては軽い1920キロという軽量化と高剛性を実現し、軽快でシャープな走りに大きく貢献している。
快適な高速走行
パワーだけではない。8速ATを組み合わせることで滑らかなエンジンフィールと加速感を手に入れており、その走りはシルクをなでるようにスムーズ。アクセルを踏み込んでも荒々しさは微塵も感じさせず、自然吸気エンジンがどこまでも上品にクルマを加速させる。もちろん、AWDがもたらす加速時の蹴り出しや走行時の安定感も抜群だ。
時速100キロで走行しても、車内の静粛性は高いレベルで保たれている。エンジン音、ロードノイズ、風切り音はほとんど気にならない。むしろ静かすぎて、グローブボックス周辺から時折聞こえる微振動が少し気になってしまった。
コンパスのように正確、そしてしなやか
上信越自動車道の富岡インターで一般道に降りて低中速走行を試す。カーブを右に左に曲がりながら目的地の「甘楽ふるさと館」を目指したのだが、ここで感心したのが質の高いハンドリング性能だ。まず、ハンドルを切ったときに、焦点の定まらないフワフワとした“遊び”が全くない。高級セダンに求められるスムーズで当たりの軟らかいハンドリングの中にも、しっかりとダイレクト感があるのだ。コーナーに進入すると、まるでコンパスで円を描くようにきれいにカーブを曲がっていく。低中速度域の走りも実に軽快で、ストレスフリーな走行感覚にどんどんと気持ちがよくなってくる。
足には245/40の20インチタイヤとブレンボ社製のブレーキを履いている。気になる乗り心地だが、キャデラックは磁気の力を利用してサスペンションの減衰力を可変させる「マグネティック・ライド・コントロール」を採用している。走行状況に合わせて足回りを“緩急剛柔”にコントロールする技術で、高速道ではしなやかな乗り心地を、ワインディングなどコーナーを曲がるときは引き締まった足回りでロールを抑える。この技術は多くの高級車メーカーが導入しているが、最初に開発したのは“ハイテク好き”のキャデラックだ。ベンツやBMWと比べると、やはりキャデラックの乗り心地はアメ車らしく全体的にソフトな印象。個人的には、このふわりとしたドライブフィールに高級セダンとしての優雅さを感じた。
取り回しもボディサイズに慣れてしまえばそんなに苦労はしないだろう。大型車両にしては意外と車両感覚がつかみやすく、障害物に接近したときは警告音とともにシートがブルブルと振動して知らせてくれるので、駐車時などでも安心だ。ただし、やはり狭い駐車場では気を使ったし、場所によっては高さ制限や車幅制限に引っかかることも覚悟すべきだ。
“フェイク”じゃない美しいデザイン
デザインに目を向けてみよう。エクステリアは一言でいうと「ダイナミック」。ガタイの大きさもそうだが、特徴的な大型グリルや個性的なランプ類がCT6の存在感を一段と引き立てている。涙を流しているような縦型のLEDヘッドランプは某日本車メーカーも採用を始めたが、正直、CT6の方が圧倒的に上品でカッコいい。リヤのコンビランプも縦長のデザインで、夜間にLEDを灯すと何とも美しいラインが浮かび上がる。どこから眺めても無駄なラインが一本もなく、威風堂々と構える風貌は非常に洗練された印象だ。
このクルマのハイライトの一つが贅を尽くしたインテリアだ。とはいえ、きらびやかな豪華さとは少しテイストが違う。どちらかといえば落ち着きのある優美な空間だ。ダッシュボードやシートには、セミアニリンレザーやカスタム仕上げのウッドといった高級素材を使用している。なんちゃって高級車にありがちな「レザー風/ウッド調」といった、いかにもトランプ大統領が嫌いそうな“フェイク”な素材は一切使っていない。
インパネ回りの操作性も抜群。10.2インチのディスプレイやエアコン操作はタッチパネル式で、感度は良好。意図しない操作や指の動きに反応しないといった不便さは見られなかった。
くつろぎの空間で最高のエンタテインメントを
座り心地抜群のシートには、ヒーターとマッサージ機能を全席に搭載してパッセンジャーをもてなす。後席を最後部までスライドさせれば、1メートル以上のレッグスペースを作ることも可能だ。前席のシートバックには10インチのディスプレイを格納しており、後席のアームレスト内に収納された2つのヘッドホンとリモコンを使えば、最高のエンタテインメントをリヤシートで楽しむことができる。
サウンドシステムにはボーズ社の高級ブランド「Panaray」を使用する贅沢ぶり。34個のプレミアムスピーカーを適所に配置するなどCT6専用のサウンドシステムを設計することで、まるでコンサートホールにいるかのような臨場感あふれる空間を作り上げている。
ふと見上げれば、大型の電動サンルーフが開放感をもたらす。様々な場面でルーフを開けてみたが、風の巻き込みをしっかりと抑えているので、高速走行中でも車内でプチ・ハリケーンが発生するようなこともないし、「風がゴーゴーとうるさい」と感じることもなかった。
インテリアで一つだけ残念だったのは、シフトレバーの手前に並ぶ3つのボタンがやや安っぽいことだ。これらは「走行モード」などを選択するボタンなのだが、「これだけ質感が高いのに、なぜここだけ…」とズッコケそうになってしまった。この辺の詰めの甘さは、ぜひドイツ御三家やレクサスを見習って改善してほしいと感じた。
トランクルームはタイヤハウスの張り出しを抑えてあり、広々としている。トランクスルー機構も備えているので、あらゆる大きさや形状の荷物にも対応できそうだ。
充実の先進安全装備
アダプティブ・クルーズコントロールやエマージェンシー・ブレーキシステムなど、思いつく先進安全装備はほぼすべて搭載している。道中に道路脇で工事を行っていたのだが、CT6は車両の近くに立つ作業員の存在をカメラでしっかりと認識し、人型の警告サインをインパネ上で表示することでドライバーに危険を知らせてくれた。
これまで「アメ車は大雑把で荒っぽい」というイメージが強かったが、CT6の走りは実に繊細で正確。高い操縦性や運動性能を披露するなど見た目に似合わない「ドライバビリティ(運転のしやすさ)」が際立っていた。室内空間も隅々にまで心づかいが行き届いている。CT6の特徴を言葉で表すなら「まじめな正統派ラグジュアリー」「信頼できる安定感と安心感」といったところか。今回は自分でハンドルを握ったが、機会があればぜひ、運転手付きの後部座席で“社長気分”を味わってみたくなった。
2週目となる次回は、シボレー・コルベットと同じ6.2リッターV8エンジンを搭載したモンスターセダン「CTS-V」を紹介する。乞うご期待。(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)
■主なスペック キャデラック・CT6 プラチナム(試乗車)
全長×全幅×全高:5190×1885×1495ミリ
ホイールベース:3110ミリ
車両重量:1920キロ
エンジン:V型6気筒DOHC
総排気量:3.6リットル
最高出力:250kW(340ps)/6900rpm
最大トルク:386Nm(39.4kgm)/5300rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:全輪駆動
タイヤサイズ:245/40R20
定員:5名
燃料タンク容量:72リットル
ステアリング:左
車両本体価格:998万円(税込)
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