【動画あり】レクサスの高級スポーツボートを試乗してわかったマリン事業進出の狙い
あのレクサスが陸から海へ-。今年1月に米国フロリダ州マイアミで行われたイベントで、一艇の美しいボートがベールを脱いだ。名前は「レクサス・スポーツヨット・コンセプト」。トヨタ自動車がレクサス車両の開発とマリン事業で培ったモビリティ技術の粋を詰め込んだ試作艇だ。あれから数カ月が経ち、今回ようやく愛知県の三河湾で試乗する機会を得た。そこで筆者が見たのは、水陸の垣根を越えた“新しいカタチ”のライフスタイルだった。(SankeiBiz 大竹信生)
際立つ斬新デザイン
純白のクルーザーが所狭しと並ぶヨットハーバーの片隅でブロンズ色に輝くボートが目に留まった。未来を予感させる流麗なデザインに身を包み、鋭い存在感を放っている。
ここは愛知県蒲郡市にある「ラグナマリーナ」。昼前に東京を出発したときは曇り空だったが、こちらは幸運にもマリンスポーツにおあつらえ向きな上天気だ。
レクサス・スポーツヨット・コンセプトは、高級車ブランドのレクサスが初めて手掛けた最大8人乗りのプレジャーボート。全長42フィート(12.7メートル)で、最高速度は43ノット(約80キロ/h)を誇る。船体構造にカーボンを採用して高剛性と軽量化を図っており、レクサスのデザインチームによる優美で躍動感のあるフォルムや高級なインテリアが特徴だ。
高性能スポーツカーのエンジンをチューニング
ボート後方部から乗船すると、ガラス張りの床下に2基の大きなエンジンが見えた。何とも贅沢な話なのだが、この船はレクサスの高性能スポーツカー「RC F」や高級クーペ「LC500」にも搭載される5リッターV8エンジンを使用しているのだ。
真っ白なシートに腰を下ろすと、エンジンが「ボボボボ…」と小さな音を立てながら防波堤の外に向かってゆっくりと動き出した。ハーバーに係留するヨット群が小さくなっていく。やがて大海原に解き放たれたボートはスロットルを全開し、波を切り裂くように鋭く加速した。「RC F」と「LC500」は過去に「試乗インプレ」のコーナーでも取り上げたが、船舶用に専用チューニングされたエンジン音はより甲高く、リズミカルな抑揚が軽快な印象を与える。
圧倒的な解放感
甲板を屋根で覆わないオープンデッキの魅力は何といっても、海風を直接肌で感じられるスピード感だ。この日は最高で33ノット(約65キロ/h)まで加速。走航中は風音やエンジン音に遮られて会話もままならないが、同船者たちの満面の笑みと全身を使ったジェスチャーを見るだけで、各々が感じている高揚感は自然と伝わってくる。
筆者も思わず「めちゃくちゃ楽しい!」と大きな声を出してしまったが、それも一瞬で掻き消されてしまった。風を直接感じ取るだけで、いま自分が体験しているアクティビティに対する関与度合いは一気に深みを増す。それは、例えば船内から窓越しに景色を眺めるのと、体いっぱいに風を浴びながらスピードを体感するのでは、ボート遊びに対する没入感が劇的に変わってくるということ。いままさにどっぷりとハマっている状態だ。その代償として髪型は壊滅的に乱れ、波しぶきを浴びたりもするが、これもマリンレジャーの一部であり醍醐味なのだ。
気品に満ちたラグジュアリー
速度を落として楽しむクルージングもこれまた贅沢。スピード走航時の“暴風”から一転、心地よい風を感じながら見渡す限りの水平線を眺めていると、心が完全にリフレッシュされる。地上とはまた違ったリラックスタイムはまるで時間が止まったかのような静寂に包まれ、実に長閑だ。
「外もいいけど、ちょっと中で休みたいかな…」というときは、キャビンでまったりと過ごすのもいい。階段を下りた先には、間接照明に照らされたブラックガラスのフローリングと大きなU字型ソファ。乗船前は豪華絢爛なインテリアを想像していたのだが、実際は過度に飾らず落ち着きのある「和風」の空間に仕立ててあり、全体的に「品のある洗練されたラグジュアリー」という印象を受けた。大型スクリーンやマーク・レビンソンの高級オーディオ、木材をふんだんに使ったWC兼シャワールームも完備。採光用の天窓も取り付けてある。船内から外を眺めることはできないが、前方のハッチを開けて顔を出すことは可能だ。
気になる市販モデルは…
さて、ここまで読まれた方はレクサスボートの発売時期が気になることだろう。トヨタ自動車マリン事業室長の上田孝彦氏によると、発売に関する問い合わせは増えており、豊田章男社長からは「いつまでコンセプトなんだ」と発破をかけられているそうだ。上田氏によると、市販第一号モデルは今回試乗した42フィートから大幅にサイズアップした60フィートクラスで開発を進めているという。「十分な居住スペースを確保しつつ、オーナー自ら操船して『走る』ことを楽しめる上限を考慮すると、60フィート前後がベストだと考えています」。
船体を大型化しても革新的なレクサスデザインは積極的に取り込むという。「これまでの大型クルーザーはどれも角ばっていました。(レクサスとしては)安全面を担保しながら、スポーティーで流麗なラインをいかに落とし込むかがポイントになります。ユーザーが望むものに近い実用性とデザイン性をバランスさせて勝負します」。
具体的な発売時期や価格の明言は避けたが、「忘れられては意味がない。購入を検討している人が待てるくらい、可能な限り早く出すことを意識して取り組んでいます。市場の適正価格を視野にレクサスの思想も入れて、戦える値段を考えています。社内でも期待は高いです」と腕を撫す。
レクサスの「優雅な空間」を持ち出す
2016年にメルセデス・ベンツがラグジュアリーボートを発表。英国のアストン・マーティンも同時期にパワーボートをお披露目した。18年には潜水艇のローンチも予定するなど、高級車ブランドによるマリン事業進出は活発化している。ブランド信念の一つに「新たな驚きの創造」を掲げるレクサスも、クルマにとどまらない活動に手を広げることで、「驚き」の体験領域の拡大を狙っている。
レクサス車をマリーナにとめて、そのまま海へ-。筆者がボート試乗を通じて感じたのは、ユーザーが「レクサスの世界観」を陸から海へ持ち出せるようになったということ。これまでレクサス車が提供してきた「驚き」や「おもてなし」を海の上でも体験できるという選択肢ができたのだ。勝手な想像だが、そのうち家や家電、ベビーカーからプライベートジェットまで、レクサスブランドに囲まれた生活が富裕層にとって当たり前になるかもしれない。レクサスのような自動車ブランドは「ライフスタイルの総合プロデューサー」として、クルマを中心に人々の暮らしをより豊かにデザインするポテンシャルを秘めていると思っている。ひょっとすると、今回動きだした「レクサスの提案するマリンライフ」はその一部に過ぎないのかもしれない。
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