【試乗インプレ】ルノーの屋台骨は最高の遊び相手 カングーが愛される理由は実用性だけではない
今回紹介する「カングー」は、ユニークなルックスが特徴的なフランス生まれの小型ミニバン。意外かもしれないが、実は日本市場で最も売れているルノー車だ。毎年春になると日本全国のカングーオーナーが一堂に会する大イベント「カングー・ジャンボリー」が催され、今年は過去最多となる1243台、4226人の参加者を集めた。失礼ながらこれまでは「ちょっと洒落た商用車」くらいにしか思っていなかったのだが、最近は街中で見かけることが増えてきた。「乗ったらきっと楽しいんだろうな…」。そんなことを想像しながら広報車を手配して、ファンから愛される理由を探ってみた。(文・大竹信生/SankeiBiz 写真・瀧誠四郎)
欧州でも人気、日本市場では稼ぎ頭
カングーは1997年に誕生して以来、欧州ミニバン市場で高い人気を博してきた商用車ベースの多目的車だ。乗用車に貨物室を合体させた背高スタイルが特徴で、フルゴネットと呼ばれるライトバンの一つに分類される。
2007年にはボディサイズを拡大した現行モデルが登場し、09年には日本市場にも投入。昨年度はルノー・ジャポン全体の1/3にあたる2167台を販売したブランドの屋台骨だ。現在のラインアップは2つのエンジンと3つのミッションタイプを展開している。1.6リットル4速AT車に加え、あとから追加投入された1.2リッターターボに6速EDCもしくは6速MTを組み合わせたモデルも用意している。
今回借りたのは1.2リッターターボ6速EDCモデル。EDCとはエフィシエント・デュアル・クラッチの略で、名前の通り2つの(デュアル)クラッチを持つMTベースのトランスミッションだ。変速はコンピューター制御による全自動で行われ、滑らかなギアチェンジと加速、燃費抑制をウリにしている。試乗車のグレードは装備が充実した「ゼン」で、価格は259万円だ。
実はけっこう大きいんです
「こんなに大きかったっけ?」-。実物を改めて観察すると、けっこうボリューム感がある。外寸は全長4280×全幅1830×全高1810ミリ。全長はホンダの小型車フリードとほぼ同サイズながら、全幅はトヨタの大型ミニバン・ヴェルファイアに迫る広さ。全高もヴォクシーとほぼ変わらない。ショート&ワイドな車台に背高ボディを乗せているため、ボックス型の物体としてなかなかの存在感を放っている。
運転席に座ると、まず大きなフロントガラスが目に飛び込んできた。目の前に開けた広大な景色が開放感とワクワク感をもたらす。車内を囲むウインドーはすべて大きく切り取られており、クルマの隅々まで明るい。これなら雨天や曇天時のドライブでも車内のどんより感を吹き飛ばせそうだ。
運転席周りは極めてシンプル。操作系のボタンは必要最低限の空調とハザード、ETC車載器のみで、ダッシュボードやセンターコンソール周辺にはスペースが有り余っている(だから埋めましょう、と言っているわけではありません)。いかにも商用車らしい簡素な作りだ。斜めに寝かせたメーターパネルはルノー車に多い特徴。車種によっては見づらいと感じたこともあったが、カングーは視点が高いこともあって見やすい。ダッシュボードの奥には小型モニターを備えている。筆者がこれまで乗ったルノー車では初めてナビが付いていたのだが、前のめりにならないと手が届きづらく操作に苦労した。
シフトレバーはインパネシフトを採用しており、レバーを左に倒せば「+/-」の操作でマニュアル走行が楽しめる。航空機やボートのスロットルレバーを思わせる横向きのサイドブレーキははじめこそ違和感があったが、そのうち自然と手に馴染むようになるので心配はいらない。
見た目だけで判断してはいけない
カングーを見れば車内の広さや実用性の高さは容易に想像できるが、筆者が今回の試乗で最も驚いたのは、むしろ走行性能の高さだった。別にスポーツカーのように俊敏ではなく、そもそもカングーに速さを求める人はあまりいないだろうが、少なくともノッポでアンバランスな見た目には全く似合わない運動神経の良さを持っているのだ。
最高出力84kW(115ps)/4500rpm、最大トルク190Nm(19.4kgm)/1750rpmを発揮する1.2リッターターボエンジンは低速域から力強いトルクを発生し、地下駐車場の急勾配も涼しい顔で駆け上がっていく。加減速の多い街乗りから高速道路まで、超低速走行時を除けば滑らかでストレスフリー。高速道路でアクセルを踏み込むと一気に6500rpmまで吹け上がり、伸びやかに速度を上げていく。これには明らかに6速EDCとの相性の良さが貢献している。実際、6速のレンジを生かして小刻みに最適なギアを選択することで、どの回転域でも気持ちよい変速と加速感が味わえた。走行フィールはATに限りなく近い。MTを選ぶオーナーが3割程度いるとはいえ、カングーユーザーはファミリー層が多いことを考えると、よりATライクなスムーズな走り心地は理に適っているはずだ。
走行安定性にも舌を巻いた。直進安定性、コーナリング性能ともにナーバスな挙動とは無縁で、ノッポなバンを運転していることを忘れてしまうほどの安定感を誇る。カーブを苦手とするスーパーハイトワゴンはもちろん、格上の国産ミニバンをあざ笑うかのような優れたハンドリング。やや柔らかめの足回りも不快なバンプを上手にいなす。さすが石畳の多いフランスで鍛えられてきただけのことはあるが、高速道路の継ぎ目で突き上げ処理に手こずる場面もあった。風切り音をしっかりと抑えるなど静粛性はバッチリ。とにかく、ガタイの大きさや高さといった走行時のネガを感じさせないパフォーマンスは想像をはるかに超えていた。この手の多目的車でこれだけ走れば大満足だ。
使い勝手の良さに疑いの余地なし
使い勝手の良さを今さら多く語る必要はないと思うが、念のため主だった点を記そう。立体感のある座り心地抜群のシートは前席、後席ともに高さがあって乗降性に優れており、シートバックテーブルも備えている。後席は6:4の分割可倒式で、フルフラットに近い状態まで倒すことが可能。写真のように横になってみたが、身長172センチの筆者でギリギリ足を伸ばせる広さだった。
広大な室内には収納スペースもたっぷりと確保されている。特に前席頭上のオーバーヘッドコンソールと後席真上の3連式オーバーヘッドボックスは、長尺モノを収めることもできる。大きな懐中電灯(ランタン)などキャンプや夜釣りで使用頻度の高いものは、ここに入れておけば簡単にアクセスできて楽だろう。
実用性の高い両面スライドドアはカングーの長所の一つ。横開きするヒンジ式のドアが様々な場面において危険であること、狭隘な場所では荷物の搭降載に不向きであることを考えると、スライドドアは狭い日本の道路事情にマッチしているといえる。乗降性やベビーカーの積み込み時など、大きく切り取られた開口部は抜群の使い勝手を発揮する。改善点を挙げるなら、ドアが手動で重いため開閉に力がいるということだ。もしかすると、剛性に劣るスライドドアを少しでも強化するため、やや重厚に作っているのかもしれない。左右に観音開きにできるダブルバックドアも90度、180度の2段階で開けることが可能。上下に開くタイプのバックドアと比較して、狭い場所でも簡単に開け閉めができる。ただ、ドアを閉めたときにバタバタと微振動するのは少し安っぽいと感じた。開口部の中央にピラーがない構造上、これを改善するのは難しいかもしれない。
なぜこんなに愛されるのか
試乗をしながらカングーがファンに愛される理由をいろいろと考えてみた。実用性の高さや個性的なデザインはもちろん、大きな窓に囲まれた広大なキャビンにはパッセンジャーを笑顔にすることができる特殊な空間が広がり、みんなで出かけるのがもっと楽しくなるだろう。見かけによらずバリバリ走る走行性能の高さも安心につながるプラス要素であるはずだ。そして、これらに加えて筆者が強く感じたのは、このクルマのコンセプトである『-遊びの空間-』が示す通り、カングーには「カスタマイズする楽しさ」があるということだ。車内は商用車をベースにしているがゆえにごくごくシンプルで味気ないからこそ、自分の趣味や好みを投影させた「オリジナルの空間」に仕立てたいという遊び心がじわじわと湧いてくる。最近はポータブル電源の性能が上がっており、電気を持ち出すことでカスタマイズの可能性はさらに広がる。キャンプ向け、フィッシング向け、シアタールーム、ペットが快適に移動できる空間作りなど、いろんな形のカスタマイズがあるはずだ。自分のカングーの“成長過程”を見ることで愛着はどんどんと深まり、その気持ちを分かち合えるオーナー同士で強い仲間意識が芽生えるのではないだろうか。世界に一台だけの「マイ・カングー」で遊ぶのはもちろん、既存オーナーのようにジャンボリーで自慢しあうなんてことも面白そうだ。
カングーはオーナーの趣味にどこまでも付き合ってくれて、一人でも大人数でも、普段の休日をもっと楽しく過ごせるように支えてくれるよき遊び相手なのだ。(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)
■主なスペック カングー・ゼン(試乗車)
全長×全幅×全高:4280×1830×1810ミリ
ホイールベース:2700ミリ
車両重量:1450キロ
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1.2リットル
最高出力:84kW(115ps)/4500rpm
最大トルク:190Nm(19.4kgm)/1750rpm
トランスミッション:6速EDC
駆動方式:前輪駆動
タイヤサイズ:195/65R15
定員:5名
燃料タンク容量:56リットル
燃料消費率(JC08モード):14.7キロ/リットル
ステアリング:右
車両本体価格:259万円
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