【木下隆之の試乗スケッチ】アルファロメオ ステルヴィオ 「悪魔の梯子段」が異名のSUV
1世紀を超えるアルファロメオの歴史上、初めてとなるSUVの名を聞いて色めき立った。その名はなんと、「ステルヴィオ」だという。世界の趨勢はSUVに向かっており、いまやSUVを揃えてなければ自動車メーカーにあらずだから、アルファロメオにSUVが加わってもことさら驚きはないのだが、その名が刺激的すぎて腰を抜かしかけたのである。
◆スポーツカーすら悲鳴上げる難所
「ステルヴィオ」はイタリア北部のステルヴィオ峠に由来する。アルプス山脈にへばりつくように刻まれた峠道であり、スイスとの国境に沿う。標高は2757m。「悪魔の梯子(はしご)段」と恐れられ、世界の走り自慢が踏破を挑むことでも有名なのだ。
僕もこの地に足を運んだ経験がある。その目的はとりもなおさず、世界一過激だと思われる峠道に挑むためだ。太陽の光が強く降り注ぐ、夏の暑い日だった。
麓は避暑地として栄えている。ホテルのプールには水着でくつろぐ家族連れがいた。そんな平和な避暑地に峠道の起点がある。目の前にそびえるアルプス山脈を、一気に登り切るのが醍醐味。頂上付近は肌寒く、夏だというのに残雪があった記憶がある。
走り自慢のコンパクトスポーツをわざわざ日本から空輸して挑んだのだが、オーバーヒートとブレーキのフェードに悩まされた。勾配はきつく、名ばかりのスポーツカーではパワー不足を晒すことになる。下りは下りで、ブレーキが音をあげる。特徴的なのは、登りはひたすら登りのみ。下りはやすむことなく下りが連続する。エンジンにもブレーキにも酷な環境なのだ。
しかも、短い直線と直線をつなぐヘアピンカーブは、1速ギアの守備範囲。超タイトなのだ。端から眺めると、巨人が山脈に爪を立てたようである。悪魔の梯子段の異名も相応しい。ステルヴィオ峠はそんな、走り屋を魅了しながらも強く拒絶する難所なのである。
◆自信裏付けるデータもズラリ
そう、そんな世界的な難所の名を、SUVに命名したことが驚きなのだ。百歩譲ってスポーツカーならばよしとしよう。だがステルヴィオは背の高いSUVである。よほどの自信がなければ、ステルヴィオとは名乗れますまい。
一抹の不安を抱えながら、試乗プレゼンテーションに耳を傾けていると、自信を裏付ける刺激的なデータが次々に僕を驚かせた。
「前後重量配分50:50」
「直列4気筒2リッターターボ」
「最高出力280ps」
「最大トルク400Nm」
「前後可変トルク4WDシステム」
「常用FR駆動」
「軽量カーボン製ドライブシャフト」
「車両重量1810kg」
「ロール角度約50%」
「ロール軸ジュリア(アルファロメオのセダン)と同一」
「空気抵抗係数0.30」
「最大横加速度0.95g」
「ステアリングギアレシオ12:1」
「最大制動距離(100-0km/h)37.5m」
スポーツカーの紹介と見まごうばかりの攻撃的な文言である。
◆ステアリングもキレッキレ!
要するに、エンジンは強烈なトルクを発揮するターボであり、カーボンを多用することで軽量化は驚くほどである。だから驚くほど速い。それでいて、理想的なウエイトバランスであり、4WDだからトラクションに優れており、ステアリングはクイックだと宣言しているのである。
さらには、最強グレードのクアドリフォリオが、世界一過激なニュルブルクリンクサーキット(ドイツ)でSUV最速の7分51秒7を記録したと告げるのだ。
実際にドライブしても、その名に恥じない熱い走り味が込められていた。ステアリングの反応はキレッキレである。エンジンパワーは強烈にトルクフルである。SUV的な不快なロール(横方向への傾き)は全くない。視点の高さを除けば、SUVであることを忘れてしまう。軟弱なスポーツカーならば、涼しい顔をして抜き去ることもできるだろう。本当に…。それでいて、乗り心地も悪くはないのだから、恐れ入る。
その名は伊達じゃなかった。アルファロメオはSUVにも鼻息荒く、カミソリのようにキレッキレなモデルを送り込んだのだ。
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「木下隆之の試乗スケッチ」は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。掲載は原則隔週火曜日。アーカイブはこちらから。
木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム「木下隆之のクルマ三昧」はこちらから。
【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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