【近ごろ都に流行るもの】深い“場の力”を残す下町の原風景 「まち工場跡」の魅力 (2/2ページ)

  • まち工場跡の秘密めいた雰囲気が、ステージへの期待を盛り上げる=東京都墨田区
  • 下町のまち工場跡が昭和ムードのステージを盛り上げた、デリシャスウィートス公演=東京都墨田区
  • 下町のまち工場跡が昭和ムードのステージを盛り上げた、デリシャスウィートス公演=東京都墨田区
  • まち工場跡の公演には、昭和ムード歌謡の名手、タブレット純さんもゲスト出演した=東京都墨田区
  • 下町のまち工場跡が昭和ムードのステージを盛り上げた、デリシャスウィートス公演=東京都墨田区
  • 「ギャラリー南製作所」の正面入り口。まち工場時代「有限会社南製作所」の看板もそのままかかっている=東京都大田区
  • 無骨なギャラリーの看板。まち工場へのオマージュを感じさせる=東京都大田区
  • 実家のまち工場をギャラリーにした水口恵子さん。父の形見の道具とともに=東京都大田区「ギャラリー南製作所」
  • 実家のまち工場をギャラリーにした水口恵子さん。空間を生かしたインスタレーションが展示されていた=東京都大田区


 「マンションやコンビニにしませんかという資産活用の勧誘は今もある。けれど、働き者だった父の思いが詰まった場所を残したかったんです」。50代主婦、未経験での挑戦。チラシ配りから始めたが、実家の工場は図らずも音響に優れ、独特の雰囲気が人気を呼んで、写真や絵画の展示、落語、音楽、ダンス公演など多彩に活用されている。

 空間全体を作品に仕立てる「インスタレーション」の個展を取材時に開いていた港区在住の美術家・唯玲(ゆいれい)さんは、「ミニ体育館ほどの広さがあり、色々な仕掛けができる。人の面影や過去の記憶が立ち上るような空気とにおい、外と地続きの床など、工場ならではの魅力を感じます」。

 昨年のノーベル賞授賞式典でも演奏したノルウェー出身の世界的パーカッショニスト、テリエ・イースングセットさんも演奏に訪れ、水口さんの母校でもある区立糀谷小学校の児童などと交流したり、高齢者施設の入所者が車椅子で訪れるなど、今や地域交流の新名所だ。

 「父が残してくれたまち工場跡を、いいなと思ってくれる人が使ってくれて、思い出を持ち帰ってくれることがうれしい」と水口さん。

 11月24、25日には、東京工科大・酒百(さかお)宏一教授のワークショップ「オオタノカケラ」を開催。かつて工場で使われていた道具を「大田のタカラ」とし、新たな作品を生み出す5年来の取り組みである。

 まち工場跡は、はかない“夢の跡”にあらず。夢や未来を作り続けていた。