SankeiBiz編集長・高原秀己 消費増税の便乗値上げ
視点■世の中に漂う寛容な空気
5%だった消費税の税率が4月から8%に引き上げられた。この機会を待っていたかのように、多くの企業や事業者が、外国産農産物など原材料価格の値上がり分や、原発停止を受けた電気代の上昇分など、複数のコストアップ要因も併せて価格転嫁した。4月以降のいろいろな製品やサービスの値上げを見ると、3%はおろか、5%や10%以上という値上げ幅もあった。メーカーや事業者らは、価格転嫁すべき要因がいくつもあると説明する。だから「便乗値上げ」や「不当な値上げ」ではないと強調している。
だが、それに近い不適切な値上げに見えるものも少なくない。特に納得しづらい事例の代表といえるのが、「4月からは新たに8%の消費税をいただきます」というパターンだ。これまでの税込み総額だった価格が、いきなり本体価格にすり替わり、ここに8%が乗る。これまで内税として処理されていたはずの5%分は、明らかに“二重取り”となる。小規模な店舗に多いようで、実は筆者が利用している飲食店にもあった。店主に理由をただしても「消費税が8%に上がりましたので…」などと要領を得ない。
その際、驚いたのは、他の来店客はその不可解な値上げ方法について、ことさら問題視していなかったことだ。
◇
最近「おかしいな」と感じるのは、この一連の値上げラッシュに対して、世の中の空気が非常に寛容である点だ。以前だと社会的にも政治の舞台でも、ひと騒動になっていたのではなかろうか。
何よりも大きな理由は、安倍晋三政権が脱デフレに向けて、さまざまな施策を進めている効果だろう。指標になっているのが「物価上昇率2%」であり、いわば国をあげて物価の高騰を促しているのである。この流れの中で、消費税の増税が行われた。
いきなり増税、では国民の強い反発を招くだけだろうが、前の民主党政権時より大幅な円安株高が進み、法人の事業環境改善に役立った。国の成長に向けたさまざまな施策も検討されている。極めつけは政府与党が企業に対して賃上げを促す運動まで行ったことだろう。
賃上げを促す働きかけについては、勝ち組企業の従業員だけしか恩恵にあずかれないという根本的な欠陥があるが、ともかくも政府与党が、以前の革新野党も驚くような賃上げの働きかけを企業経営側に行ったのだから、いかにもわかりやすい。
こうした施策に一定の評価が広く得られているからこそ、消費税増税を含めた物価上昇策に対する反発は、さほど強まっていないのだろう。それに何よりも、消費税の増税を決めたのは現政権ではなく、前の民主党政権だ。そもそもが「増税反対」の矛先すらわかりにくい話なのである。
◇
もちろん妥当性が感じられない値上げに対して、不満や怒りを感じ、反発する人は当然いる。政府は昨年秋に消費者庁に「便乗値上げ情報・相談窓口」を設けた。着実に苦情や相談は届き、4月には最高の1555件が寄せられたという。前述の「いきなり8%」の苦情も多数届いたそうで、驚いたことに飲食店のみならず、小売業であるスーパーの事例まであったという。
だが、こうした訴えに対する消費者庁の出した結論は「便乗値上げに当たるものは1件もない」。なぜか。
担当官に説明を聞くと、「どのケースにも値上げの理由はあり、極端に悪質な値上げはなかった」というのだ。消費者庁が、売り手である企業や事業者に対して性善説で臨んでいる可能性はあるものの、例えば何%以上の値上げなら問題だ、という判断基準もないため、よほどのことでもない限り、便乗値上げ摘発といった行政対応は期待できない。
この問題、当面は訴え出る先すらないので、あとは「買わない」「他で買う」という行為を通じて、経済原則による選別に期待するしかないのか。いや、納得できないときや疑問に感じたときは、企業や事業者に対して、遠慮なく説明を求めるべきだろう。沈黙を快諾にすりかえられては、たまったものではない。
関連記事