「米国はF3開発に介入せず」「次期戦闘機は日米共同開発を」…米ヴァンダービルト大教授ジェームス・アワー氏
米ヴァンダービルト大(テネシー州)教授で元米国防総省安全保障局日本部長のジェームス・アワー氏は「日米FSX(次期支援戦闘機)紛争」や日本のステルス戦闘機開発などについて、電子メールでのインタビューに応じた。やり取りの詳細版は次の通り。
--日本政府が次期戦闘機の国産方針を米国に伝えた場合、米政府はどう反応するとみているか
アワー氏 日本が国産機開発方針を決めたとしても(次期支援戦闘機=FSX=問題で日米がぎくしゃくした)1980年代とは取り巻く環境も違うため、米国の反応は全く違うものになろう。日本は当時、日米貿易で電機、自動車を筆頭に幅広い分野(防衛装備や航空機は例外だ)で大幅な黒字だった。米国民の間には日本経済が順調に拡大する中、米経済が停滞しているとの不安があった(日本のバブル崩壊は予想すべくもなかった)。
米国防総省のエンジニアらにとって日本の航空技術力は怖くなかったが、一部の政治家やジャーナリストは、怠慢か不注意かあるいは意図的に、日本は米経済の脅威になると攻撃した。(名門の)雑誌『アトランティック』の1989年5月号に掲載されたジェームズ・ファローズ氏の記事『Containing Japan(邦題:日本封じ込め)』はその一例だ。同誌54ページに『日本が封じ込められない場合は米国が自らの外交政策の遂行や意見を推進する権威が(中略)脅威にさらされることになるだろう』と指摘している。FSX問題については48ページで言及されている。
当時、米国は防衛と航空機で大幅な対日貿易黒字を維持していたが、自動車を主力産業とするミシガン州や鉄鋼など主要産業を擁する他州の政治家は自らの競争力不足を懸念していた。例えば、彼らは米フォード・モーターの小型車「ピント」やモトローラ製テレビ(これは米国人ですら買いたがらなかった)がトヨタ自動車のカローラやソニーのトリニトロンより優れていると主張できなかった。その代わりに、日本の『非道な』商慣行に関し専門的・客観的立場の権威としてファローズ氏やオランダ人ジャーナリスト、カレル・ヴァン・ウォルフレン氏らの著書を引用して「日本は不公平だ」と決めつけ、国産戦闘機開発にかける日本の防衛産業の希望を対日批判の口実に利用したというわけだ。
ただ私の見解では当時、米国は航空機設計で優位性があり、日本が単独で戦闘機を開発していても、おそらく既存の米国製戦闘機の能力には及ばず、乏しい防衛予算を浪費するだけだっただろう。そういえる十分な根拠があった。
ファローズ氏のほか、一部政治家らは米大統領に「日本に米国製戦闘機の購入を強要すべきだ」と圧力をかけるよう求めていた。これに対しワインバーガー国防長官(当時、以下同)は、米航空機を選択するよう日本に圧力をかけるのではなく(ワインバーガー氏は日本占領時であれば可能だろうが、80年代ではもはやありえないと考えた)、米国は次の2つを日本と共有すべきだとレーガン大統領を説得した。
それは(1)日本がFSXに求める要件以上の米国の技術(2)新型の高性能機を一から開発することで生じる資金的・技術的リスクに関する米国の経験-だ。
米政治家の不当な対日批判や米防衛産業の脅威に動揺していた中曽根康弘首相と栗原祐幸防衛庁長官は新規に国産機を開発するより、優れた米航空機をベースに特定の日本の技術を付け加えるべきだという米大統領と国防長官の主張に同意した。
当時と現在の状況は全く異なり、米経済は比較的うまくいっている。90年代とそれ以降ではファローズ氏らの恐ろしい予測がばかげていたことが明白となった。私は、日本が第5世代戦闘機のF35を購入するという方針を賢明な決断だったと信じている。しかし、日米同盟の重要性がこれまでになく増している昨今において、仮に第6世代戦闘機(有人機のままか、それとも無人機になるのかはわからないが)ともなれば、独自で開発を進めるのではなく、資源を結集することが経済・防衛両面で最も理にかなっている。その意味でも日米の専門知識の粋を結集して共同開発すべきだ。
--国産方針推進者には『強い米大統領が就任すれば日本の国産機開発計画に介入する可能性がある』との危惧(きぐ)もある
アワー氏 日本が独自開発を望むのであれば、たとえ強い米大統領が就任しても(米国にとってはそれが強く求められていると思うが…)、日本に米戦闘機の受け入れを『強要する』ことはできない(ワインバーガー国防長官がレーガン大統領を説得したように)。FSX問題では衝突寸前だったが、私は賢明な日米のリーダーらが同じことを繰り返すことを好まず、むしろ『真の共同開発』を選択することを望む。
(F2の開発を発表した)瓦力防衛庁長官とカールーチ国防長官(ワインバーガー氏の後任)の2人はF2計画を『共同開発』と呼んだが、実際は共同開発でないことを認識していた(F2はライセンス生産されたF16が一部改造されたものにすぎない)。両者はF2開発を将来の『真の共同開発』につなげたいと願っていた。
残念ながら、F2のベース機にF16を選択した日本の決断の後、米上院における辛辣で不当な日本批判(クライド・プレストウィッツ氏などといった人々は、『共同開発』は米産業が航空機設計で秀でるように日本に『教える』ことになり、『ライセンス生産』よりたちが悪いと書き記し、証言した)は日本で反感を招き、真の共同開発は少なくとも数十年先延ばしとなった。私は個人的に、今なら真の共同開発が可能だと期待している。その意味で、中国には感謝する必要があるかもしれない(半分は冗談だが、半分は本心だ)
--戦闘機(特に最新鋭の第5世代戦闘機)の開発をめぐる日本の技術水準をどう評価するか。また米航空機メーカーがFSX紛争の時と同様に日本のライバルを警戒し阻止しようとする可能性は
アワー氏 私は技術面の専門家ではないが、コスト面について言及したい。私の知っている限りではF35は米国向けに開発されており、日本にとって非常に素晴らしい第5世代戦闘機となるだろうが、コストは途方もなく高い。F35の価格高騰はマケイン上院議員(元海軍パイロットで捕虜として北ベトナム兵から数年間、拷問を受けた)など国防問題に理解のある政治家でさえ批判の的になっていた。私はマケイン上院議員を称賛しているが、これは高性能戦闘機開発をめぐる開発費高騰や技術的な難しさを象徴している。私の見解では、日米双方に技術的専門知識があり、開発コストが法外に高いという事実は将来の共同開発を支持する十分な根拠になるといえる。無論、ロッキード・マーチンなど米メーカーあるいは三菱重工業など日本メーカーにとっては、すべて(またはできる限り)独自で開発したいところだろうが、私の個人的意見としては、単独での開発は過去や現在だけでなく、未来においても、『将来の夢』といえるのかもしれない。
--国産戦闘機開発は航空機産業や雇用の拡大などの利点があるが、その他の観点ではどうか
アワー氏 日本は(FSX計画で)F1より優れた『(純)国産のF2』を開発できたのかもしれないし、その方が三菱重工業とその関係会社、株主にとっては良かったのかもしれない。だが、その性能が(F2のベース機である)F16に匹敵するものになっていたかは疑問だ(個人的にはF2のベース機をF16ではなく、[海軍士官経験者として親近感がある海軍機の]F14改修版とするのが最良の選択だったと思う)。さらに、純国産機開発はほぼ間違いなく日本の納税者にとって非常に高くつくことになっていただろう。
十分な時間と努力、巨額投資で日本は『(純)国産』の第5世代戦闘機を『辛うじて独自に』開発することは可能だろう(『辛うじて』としたのは、このような航空機には依然としてかなりの量の米国もしくは外国の技術が組み込まれることになると確信しているからだ)。それ以上に、私はむしろ日米の双方がF35をベースにした『スーパー第5世代戦闘機』の開発に、そして第6世代戦闘機に向けた真の意味での共同開発に、限られた資金をより多く投入することを期待したい。(佐藤健二)
関連記事