野田聖子氏はなぜこれほど総裁選出馬にこだわるのか?
安倍政権考自民党総裁選(8日告示、20日開票)に出馬するため、野田聖子前総務会長が20人の推薦人集めに奔走している。すでに党内の全派閥が安倍晋三首相(党総裁)を支持し、首相の再選は揺るぎない。にもかからわず、なぜ野田氏は出馬にこだわるのか。
「自民党は総裁選を開き、開かれた場所で開かれた議論のなかでわれわれの多様性を訴え、保守として進化してきた。今、私の心は『義を見てせざるは勇なきなり』です」
野田氏は1日、都内での政治資金パーティーでこう語り、総裁選への強い意欲を示した。
「義を見て-」は論語の一節で「人として行うべき正義と知りながらそれをしないのは、勇気が無いのと同じこと」の意。総裁選を行うことが「正義」なので私は勇気を奮い立たせている-という意味で引用したのだろう。
野田氏は今回の総裁選について「首相の政権運営をめぐるこれまでの決算、そして次の任期3年間で何を行うのかを明らかにする場だ」と説明する。野田氏側近も「党内には多様な意見があるということを世間にアピールした方が自民党のためになる」と意義を強調する。
だが、野田氏が出馬にこだわるのは、こうした正当な理由ばかりではなさそうだ。
野田氏は元々、盟友の石破茂地方創生担当相に出馬を促していた。石破氏といえば、平成24年の前回総裁選で惜敗した首相の“政敵”。野田氏は「次々回の総裁選に向けた存在感を示すためにも、閣僚を辞任する覚悟で手をあげるべきだ」と口説いたという。
ここに野田氏の本音が透けて見える。
安倍内閣の支持率は春から夏にかけて安全保障関連法案の国会審議などを通じ下落傾向にあった。首相に「万一」があるのを見越し、今のうちに党内議員が結集できる「旗」を立てておく。たとえ総裁選後に党内で冷遇されても結果的には「ポスト安倍」に最短距離で届く-。「石破氏が出馬しないならば自分が…」。こんな皮算用を弾いたようだ。
過去の総裁選では、小泉純一郎元首相が3回、麻生太郎副総理兼財務相が4回も挑戦し、首相の座を射止めた。それだけに自民党内では「当選回数を重ねるより、総裁選に1度出た方がはるかに知名度は上がる」(幹事長経験者)と言われている。
もし、野田氏が総裁選で首相と一騎打ちとなれば、テレビはこぞって2人の討論番組を流すだろうし、街頭演説会では自民党の選挙カーの上で首相とともに立つことになる。
つまり総裁選は、自分を「首相と対等な存在」と世間にアピールすることができる最大のチャンスなのだ。「これを逃す手はない」。これが野田氏の本音ではないか。
これが見え透いているだけに首相は神経をとがらせている。
首相と野田氏は当選8回の同期生。野田氏が郵政民営化に造反して無所属議員になった時も、首相は平成18年の第1次政権下で復党させた。24年の第2次政権では総務会長に抜擢するなど、良好な関係を続けていた。
ところが、昨年5月に2人の関係は決定的に壊れた。野田氏が雑誌「世界」で、集団的自衛権行使容認に向けた憲法解釈変更を進める安倍政権の姿勢に疑義を呈したことが原因だった。
野田氏は同誌に「自衛隊は軍になり、殺すことも殺されることもある。いまの日本に、どれだけそこに若者を行かせられるのでしょう」とも記した。
党の最高意思決定機関である総務会の長にこんな論文を書かれては、首相の面目は丸つぶれだ。首相は激怒し、「野田聖子なんかを信用した自分がバカだった」と周囲にぶちまけたという。
首相にはもう一つ気がかりなことがある。安保関連法案の行方だ。もし8日告示-20日開票の日程で総裁選が行われれば、野党が「首相が交代するかもしれないのに審議などできない」と審議拒否に転じる可能性は十分ある。
それだけに首相はできれば総裁選を避けたいというのが本音。ましてや野田氏と同格扱いとなるのは「まっぴらごめん」と思っているようだ。自民党の側近に思わずこう漏らしたという。
「野田氏なんかと一緒に選挙カーに乗りたくないな…」
果たして野田氏は全派閥を敵にまわしつつ推薦人20人を集め、総裁選に出馬することができるのか。ただ、出馬することができても、それが野田氏の政治家人生にとってプラスになるかどうかは疑問が残る。
(政治部 水内茂幸)
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