中東から経済覇権望む中国

原油安と世界
全人代の閉幕式に出席する中国の首脳陣。前列左から3人目は習近平国家主席=16日、北京の人民大会堂(新華社=共同)

 ■鉄鋼など“在庫処分”で石油備蓄拡大

 習近平国家主席がサウジアラビア、エジプト、イランへの歴訪を終えた1月下旬、中国紙にこんな見出しが躍った。

 〈中国の石油備蓄は「黄金時代」に入った〉

 原油安の今こそ中国が石油備蓄を拡大するチャンスであり、習氏の中東歴訪がその道筋を確実なものにした、とのニュアンスだ。

 中国は内陸や沿岸に油田を持つ産油国ながら、経済成長に伴う旺盛な国内需要で1993年に純輸入国に転じ、今や米国をも上回る世界最大の輸入国だ。2015年は前年より8.8%増えて3億3500万トンとなったが、原油安で前年より輸入額は41%も安く済んだ。輸入依存度は昨年初めて60%を超えた。

 ニュースサイトの中国経済網によると、中国の石油備蓄量は50日分に満たないが、今の安値を生かせば2年以内に「安全水域」の90日分に到達できる。サウジとイランからだけで輸入原油の4分の1を賄えるとされ、習氏の中東訪問も「国家による戦略的な石油備蓄」の狙いが明らかだ。

 ◆イランに一番乗り

 中国の動きはしかし、原油価格と備蓄増強だけをにらんだものではない。欧米による制裁の解除で、世界有数の原油埋蔵量を誇るイランの国際ビジネス社会復帰をにらみ、習氏が輸入国一番乗りを果たした政治的意味は小さくない。

 習指導部の外交政策ブレーンの一人は「最大の深慮遠謀は原油輸入と引き換えになる対価をいかに支払うか、イランやサウジなど中東の産油国と交渉を進めたこと」と明かした。

 習氏は原油や天然ガスの輸入対価として(1)高速鉄道や発電所などイランで遅れるインフラ建設を中国が担う(2)パイプラインを含む鉄鋼製品などを供与する-とイラン側に説明したという。中国は巨額案件でも「物々交換」の概念を持ち込むことをためらわない。鉄鋼などの素材、鉄道車両や自動車関連などの製品で、過剰な生産設備と在庫が経済成長の足を引っ張る中国。“在庫処分”で原油が購入できる「一石二鳥」の戦略だ。原油代金として中国製武器を供与するケースすら取り沙汰される。

 さらなる戦略として、国際金融筋は、「米ドル決済が世界標準のオイルビジネスで、習氏は今後、人民元建て決済を導入するよう中東歴訪で説いて回った」と明かす。中国は元の国際化に躍起になっており、ドル基軸通貨の柱である石油取引にクサビを打ち込むタイミングと捉えたようだ。

 元が原油の決済通貨として力をつければ、中東やアフリカの産油国の外貨準備高に元を組み込ませ、一般の貿易決済や投融資などでも元建てが広がる。そこに中国主導の国際金融機関アジアインフラ投資銀行(AIIB)などの建設プロジェクトを関連づける。中国が陸路と海路で欧州までインフラ整備で経済圏をつなげる「新シルクロード(一帯一路)」構想の重要経路に中東やアフリカはある。

 ◆好機の陰に不安も

 一方で、原油安は独占事業体として巨大に膨れ上がった中国石油化工(シノペック)などの国有エネルギー企業の株価を直撃。それらに巨額融資を盲目的に続ける国有商業銀行の株価も不良債権問題と相まって危険水域に近づきつつある。この点が昨年来の上海株の下落局面の震源地との見方がアナリストの間で主流だ。2月末の外貨準備高は3兆2000億ドルでピーク時から約20%減少し11年12月末以来の水準に落ち込んだ。

 中国は16日閉幕した全国人民代表大会(全人代)で16年からの中期経済政策を発表し、成長率目標を「年平均6.5%以上」として15年までの5カ年計画より0.5ポイント引き下げた。

 原油安を好機として遠大な国家戦略を描きつつも、市場動向に振り回され、経済失速のとば口に立たされる現実。「黄金時代」は絵に描いた餅に終わるのか。イランやサウジなどとのトップ交渉をてこに、中国が中東やアフリカで果実を得たい習指導部だが、時間的な余裕はそれほどない。