マイナス金利は出口戦略だった 早々と切った最終カードに勝算は?
高論卓説2月16日に日銀がマイナス金利を導入して1カ月強が経過した。この間、銀行の普通預金金利は0.001%まで低下する一方、貸出金利や住宅ローン金利も下がり、住宅ローン市場では借り換え需要が非常に高まっている。日銀の黒田東彦総裁は15日の記者会見で、「貸し出しの基準金利や住宅ローン金利が低下し、金利面で政策効果が表れている。今後は実体経済や物価面にも波及し、評価もポジティブに定まる」と自信をのぞかせた。
しかし、政策には必ず光と影がある。特にマイナス金利という劇薬の副作用は強くならざるを得ない。まず預金者の利息収入は大きく減ることになり、年金生活者など高齢者への影響が心配される。また、金融市場では一時、短期金利だけでなく長期金利の指標となる満期まで10年の国債利回りがマイナス0.1%まで低下し、さらに満期まで12年の国債金利までマイナス圏に沈んだ。イールドカーブは極端に押しつぶされた形状をなしている。
日銀にすればこれこそマイナス金利が狙った政策効果であろうが、実体経済へのプラス効果が思うように上がらなければ、逆に金利機能の消失という負の影響が強く意識されかねない。
例えば、銀行同士が短期の資金を融通し合う無担保コール市場では取引量が急減している。日銀が公表した1月末と2月末の無担保コール翌日物を比較すると、約3.3兆円から約2兆円へ、約4割減少している。これを短期金融市場の機能不全とみるのは早計だろうか。
こうしたマイナス金利の懸念は、日銀が公表した1月28、29日の金融政策決定会合の議事要旨にも見て取れる。マイナス金利に反対した審議委員からは、「金融機関や預金者に混乱を招く」「資産買い入れの限界と受け止められる」「催促相場に陥る」「市場機能への副作用が大きい」「海外との緩和競争の恐れがある」などの意見が出された。しかし、黒田総裁は反対意見には「説明を尽くす」と引き取り、賛成5、反対4の僅差でマイナス金利の導入を決めた。
なぜ黒田総裁ら執行部はマイナス金利を強く推したのか、議事録では「人々のデフレ心理の転換が遅れ、物価の基調に悪影響が及ぶリスクが増大している」「予防的に追加緩和することが適当である」といった意見が出されている。しかし、事務局からは追加緩和の選択肢として「量的・質的金融緩和の拡大=国債等の買い入れ拡大」と「マイナス金利導入」の2案が提示されたが、このうち前者について議論された形跡はない。「マイナス金利導入という結論ありきの議論だったのだろう」(エコノミスト)とみられている。
実は、「マイナス金利は、現在の量的・質的緩和の出口戦略の一環として検討してきたもの」と日銀関係者は明かす。現在の月間80兆円もの国債を買い入れる量的・質的緩和はいずれ終わりを迎える。買い入れを停止し、日銀が保有する国債の残高を減少させるテーパリングと呼ばれる出口戦略と併せてマイナス金利を導入する案が練られていた。出口戦略で最も懸念されるのは金利の急騰(国債価格の急落)。マイナス金利はそれを抑え込む効果が期待されていたわけだ。
本来、テーパリングの過程で導入されるはずであったマイナス金利というカードを早々と切った黒田総裁に出口戦略の勝算はあるのだろうか。
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【プロフィル】森岡英樹
もりおか・ひでき ジャーナリスト 早大卒。経済紙記者、米国のコンサルタント会社アドバイザー、埼玉県芸術文化振興財団常務理事を経て2004年に独立。58歳。福岡県出身。
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