中国ビジネス 宗教、文化にも陥穽
ビジネスアイコラム■チベットにファストフード上陸
「肯徳基」とは、大手ファストフードチェーン「ケンタッキーフライドチキン」(以下、KFC)の中国名だ。去る3月8日、チベットの最大都市ラサに新規出店した。KFCの中国展開は30年近くに及ぶが、チベット上陸はこれが初だ。
KFCを展開するヤム・ブランズ(本社・米国)の資料によれば、中国での店舗数はKFCが4889店、系列の「ピザハット」が1664店に及ぶ。
北京や上海ではどこにでもあるKFCだが、ラサへの出店は別格だった。新華社通信など中国の官製メディアをはじめ、英BBC放送など内外の報道機関が報じるイベントとなった。
なぜか? その前にチベットのファストフード事情を説明しなくてはならない。
外国人観光客も多いラサ市内で、「快餐」(ファストフード)といえば、「ディコス(徳克士)」の独占状態だ。終夜営業の店舗を含め市内に8店ある。聞き慣れないのは道理で四川省成都に本社を置く中国企業だが、ハンバーガーもフライドチキンも一応そろっている。
チベットで中国企業のハンバーガーがこれほど売れるなら、外資が手をこまねいていたのは不自然だ。もともと、外食チェーン業界では「外資優位」が中国市場の常識ではないか。
しかも、KFCのチベット上陸を目の当たりにして、同じく外資大手のマクドナルドは「現在のところ、チベットでの出店予定はありません」(中国広報担当)と、なおも慎重な姿勢を崩さないのだ。
疑問を解く鍵は、チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世にあるらしい。
報道によれば、KFCは2004年にもチベット進出を計画したものの、在米の動物愛護団体から異論が示され、ダライ・ラマが団体を後押しした。メッセージはこんな内容だ。
「産業的な食品供給のチベット進出は膨大なニワトリの苦しみを永続させるものであり、私はこれに対する反対を支援します」(04年6月22日)
ダライ・ラマの論点は、仏教の五戒に挙げられる「不殺生戒(ふせっしょうかい)」を踏まえたようだ。KFCがなぜいまになってチベット上陸を決断したのかは明確でない。中国内外のメディアがラサ1号店に注目したのは、こんな経緯があったからだった。
それでも出店の是非は、企業の経営判断によるはずだ。中国メディアには、KFCの出店をダライ・ラマの「反対」を押し切った“快挙”に仕立て、都合よくダライ・ラマ批判を書き立てた論評まで登場した。これが「ほめ殺し」であるなら、KFCには迷惑な話だろう。
中国でのビジネスは、経営のそろばん勘定に加えて、政治や社会、さらに宗教や民族を含めた文化にまで目配りを要する。KFCのチベット上陸はその試金石だろう。しばらく成否を観察したい。(産経新聞編集委員兼論説委員 山本秀也)
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