パナマ文書、多くは「合法」
高論卓説■グレー「租税回避」 厳格化へ国際協力強化
パナマ文書が世界的に大きな話題になっている。この文書は、企業のオフショア(海外)活動関係では業界世界4位と言われるパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の過去40年にわたる取引データが流出したものだ。その中に脱税資金や裏金、不正取引などが含まれているとみられている。既に顧客の名前と取引額の一部が公表されており、辞職に追い込まれる政治家も出た。しかし、これが全て違法というわけではなく、その多くが『合法的な取引』であることにも注意が必要だ。
例えば、ファンドなどの場合、運用主体の倒産などによる影響を防止するとともに、二重課税の防止のためオフショアに『特別目的会社』を設立し、顧客の運用資産を移している。そうしないと、運用会社が倒産した場合、影響がファンドに及ぶ。また、ファンドの運用に課税されれば顧客の取り分が減ってしまう。顧客はファンドの配当や売却時に税を払うわけであり、二重課税になる。
問題となるのは、このような正当な目的ではなく、脱税目的や裏金の保管のためにオフショアを利用している人や企業だ。合法的な税逃れのことを『租税回避』と呼ぶが、解釈次第でこれは違法な『脱税』にもなる。この境界線は曖昧だったが、国際的に厳格化が進んでいる。
例えば、代表的な租税回避の方法として、“永遠の旅行者”というものがある。これは183日以上滞在している国に税を収めなくてはいけないという欧米のルールを悪用し、複数の国を渡り歩くことで、どこの国にも税を収めない人を指す。ただ、日本では主たる居住地や活動拠点があることが納税義務の要件になっており、残念ながらこの手法は使えない。
また、行政の運用の穴を利用し、課税の基準日である12月31日に合わせ海外旅行をすることで税逃れをしている人もいる。だが、これも脱税でしかない。
また、グローバル企業などがオフショアに権利会社を移し、各国の法人から特許料や看板料などの形で利益を吸い取り、税を払わない手法に関しても、実態から見て脱税であると判断されるケースが増えている。
仕組みとしては、まずA社がタックスヘイブン(租税回避地)に権利会社をつくる。そして、A社の日本法人で10億円の利益が出たとして、A社が日本法人に対して看板料10億円を請求する。A社はそれを払い(経費で落とし)利益をゼロにするという流れだ。これでは真面目にやっている国内企業が不利になるだけ。他国のように過去に遡(さかのぼ)って追徴課税すべきだ。
なぜこのようなことが可能だったかといえば、納税は各国の内政の問題であり、国をまたがる協力システムが整っていなかったからにすぎない。既にこの協力体制は整ってきており、今回のパナマ文書をきっかけに、さらなる協力体制が構築されるものと思われる。
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【プロフィル】渡辺哲也
わたなべ・てつや 経済評論家。日大法卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書は「突き破る日本経済」など多数。45歳。愛知県出身。
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