最低賃金「時給15ドル」の波紋
ウエスト・サイド・エコノミー■米加州「不均衡を是正」 格差拡大予測も
米カリフォルニア州が最低賃金を時給15ドルに引き上げるというニュースは全米で大きな反響を呼んだ。
◆不安視する中小企業
同州の現在の最低賃金は10ドル(約1100円)。連邦の最低賃金が7.25ドルであることをみれば、現状でも最高水準にあるが、この金額を段階的に引き上げ、2022年までに時給15ドルにするという法案が州議会で可決され、ブラウン知事が4月4日に署名した。ちょうど同じ日、ニューヨーク州のクオモ知事もニューヨーク市や周辺地域の最低賃金を最終的に時給15ドルに引き上げる法案に署名したこともあり、「最低賃金15ドル」の話題は全米に広がった。
カリフォルニア州の法案は、17年に10.5ドル、18年に11ドル、以降は毎年1ドルずつ引き上げ、22年には15ドルにする。従業員が25人以下の事業体は、15ドルへの引き上げを23年まで猶予する-という内容だ。
ロイター通信によれば、ブラウン氏は署名に当たり、「不均衡を是正する一助になる」とし、「今回の大統領選でも、怒りの感情が強く示されているが、その原因の一つは平均的な米国民の扱われ方だ」と語った。
ところが、中小事業者からは先行きを不安視する声が聞こえてくる。最低賃金を上げるのはいいが、事業主に対してそれに見合う補助金や優遇があるわけではない。賃金を上げるため、従業員数を削るという選択を迫られる事業者も増えそうだ。
米紙ロサンゼルス・タイムズは、最低賃金引き上げに伴う影響について、専門家らの分析や予測を掲載した。そのうちのひとつが、「非白人の若者の失業が増える」というものだ。
最低賃金で働いている労働者の多くが、この「非白人の若者」で、黒人やラテン系が大半を占める。こうした若者らは仕事や作法などを教えてもらうことによって、熟練度を上げていくが、最低賃金を引き上げるならば、最初から熟練度の高い経験者や、より高い教育を受けた若者を採用する事業主が増えると予想されるという。
16歳から19歳の黒人の失業率は25%。白人の13.9%やラテン系の15.6%と比べて圧倒的に高いが、予想通りになれば、黒人とラテン系の若者の失業率は増える。
◆「地下化」進む?
同じ仕事をしても、カリフォルニアなど時給15ドルの州と、それより低い州では、収入に差が生じることになり、全国チェーンのファストフード店などは労使交渉の火種を抱えることにもなりそうだ。
不法就労者に最低賃金以下の時給で働かせ、給料も現金で支払い、保険や税金を逃れる違法事業者は後を絶たないが、最低賃金が上がることで、そうした事業者が増え、さらに“地下化”が進むとの指摘もある。
ブラウン氏は「格差是正への手段」として最低賃金の引き上げを肯定したが、「格差が広がる」といった分析やマイナスの予測も意外に多い。
そうした中、最低賃金が時給8.05ドルのフロリダ州のスコット知事はロサンゼルスとサンフランシスコの両エリアで、カリフォルニア州の事業者を呼び込もうと、こんなラジオ広告を流した。「カリフォルニアを去る準備はできた? 代わりに、(州の)所得税がかからないフロリダに行きな」
効果のほどは分からないが、「最低賃金時給15ドル」が全米で注目されていることを示す一つのエピソードだ。(ロサンゼルス 中村将)
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