バリュー株の復活なるか 銀行、エネ銘柄主体に反発の可能性
高論卓説最近の米国市場ではバリュー株の復活が話題になっている。本稿ではバリュー株投資の概要を振り返り、今後の投資の見通しについて考えてみよう。
バリュー株投資とは割安株投資である。「割安株」とは本来の会社の持つ価値に比べて株式市場では安い株価がつけられているという意味である。しかし割安であるから必ずしも、いつももうかるというわけではない。割安には割安に放置されている理由もあるからだ。一般には株価純資産倍率や「P/Eレシオ」と呼ばれる株価収益率などで倍率の低いものが割安とされ、バリュー株と定義される。
バリュー株の反対側に対置されるのがグロース株である。グロース株は「成長株」と呼ばれるぐらいだから、いかにももうかりそうだが、ここでいう「成長」とは、これまで成長してきたという意味で、今後も成長するのかは分からないし、これまでの成長に見合う高い株価が既につけられている可能性が高いので、これも必ずしも、いつももうかるというわけではない。
成長株を選ぶ基準は、高い売上高伸び率や収益成長率などであるが、こうした基準を満たす銘柄は、バリュー株を選ぶ際の基準である株価純資産倍率やP/Eレシオの高いものが多く、結果としてバリュー株の反対側に対置されることになる。一般にグロース株が上昇する時にはバリュー株は下落しやすく、この反対もしかりである。
元来、株式投資における銘柄選択は、1銘柄ずつ財務諸表をにらんで精査することによって、割安や、今後成長しそうな銘柄の発掘が行われてきた。しかしコンピューターの発達によって、財務諸表や株価のデータベースが作成され、大量の銘柄群に対して簡単にスクリーニングが実行できるようになると新しい手法が加わった。アカデミックな世界でも、投資工学が発展し、株価純資産倍率や配当利回りのような指標一つ一つをファクター(要素)と呼んで、過去に遡(さかのぼ)って、それぞれの投資成果に対する効果を測定できるようになった。
そうした研究成果の一つとして、ノーベル賞を受賞したユージン・ファーマ氏らによって長期で安定して収益を稼げるファクターとして発見されたのが「バリュー効果」だった。
しかし発見された後に分かった事は、こうした傾向にも無視できない波があるということである。グラフは2000年のITバブル以降のスタンダード・アンド・プアーズのバリュー株指数をグロース株指数で割った倍率を示している。ITバブル崩壊によってハイテク株が売られたことによって当初はバリュー株が強かったが、リーマン・ショック以降は、一貫してグロース株が強かったことが分かるだろう。ここへきて、その傾向に少し変調が見られるというのが米国市場でバリュー株の復活が話題となった理由である。ちなみにバリュー株の構成銘柄は、規制強化と金利低下に苦しんできた銀行株と、原油価格の低下に苦しんできたエネルギー株が主体である。仮に市場が期待するようにバリュー株の復活があるとすれば、大きな経済上のトレンドの転換を意味することになるだろう。
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【プロフィル】板谷敏彦
いたや・としひこ 作家。関西学院大経卒。内外大手証券会社を経て日本版ヘッジファンドを創設。兵庫県出身。著書は『日露戦争、資金調達の戦い』『金融の世界史』(新潮社)など。59歳。
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